第68話・番外二「誑かす妖狐」
「……ここんとこホント平和だね、ごっちゃんなっちゃん」
「きゅきゅー!」「きゅー!」
黒狐の里でヨルが暴れたあの日から大体三年、わっちらお葉ちゃんの尾っぽ四人はあの日、妖狐になったんだ。
みっちゃんは知らないけど、わっちとごっちゃんとなっちゃん、三人はあのまま消えても特に文句も不満も無かったんだよ。
だけどね。
こうして妖狐になって、お葉ちゃんや良庵せんせと一緒に暮らせるのはとっても楽しいんだよねぇ。
「び――びぇーー!」
数えでもうすぐ二歳になる
「ごっちゃん! ちょいと化けて手伝っておくれ!」
「わ――わわわ分かった!」
ごっちゃんは最初に狐の姿で熊五郎棟梁に見つかっちゃって、なっちゃん同様、デロデロに甘い顔で可愛がられちゃったもんだからさ、普段あんまり人の姿にならない様にしてるんだ。
なんでかごっちゃんの人の姿は
「よいしょ!」
「ありがとごっちゃん! さぁ良子嬢!
凄いよねえ。ちゃんとオムツが汚れる前に自分で泣いて教えてくれるんだもん。人の赤ちゃんって賢いんだねぇ。
せんせとお葉ちゃんが診察の日は、大体こんなして三人で子ども二人を世話してるんだ。
もうすぐ三歳の
せんせが道場の日はね、わっちの
ほら、あれあれ。
それにしたってちっとも
「しーちゃん! 居るだか!? オラ団子買って来ただ!」
それにもう一人、大きな体で額に汗して駆け込んできた男の子。
ちょうど道場終わりの定吉ちゃんと、団子の包みをぶら下げた与太郎ちゃん。
二人ともさ――うひひ――わっちにぞっこんなんだって。
妖狐は大体
けど今のわっちはちょっと育って見た目十五歳くらい。だから定吉ちゃんと同い年ってことにしてるんだよ。
与太郎ちゃんは三つ上の十八歳。賢安寺の先代寺男さんが引退して、今じゃ立派な一人前の寺男。
定吉ちゃんは小さいけれど地に足ついた商いが評判の小間物問屋の跡取り息子。
将来性と顔の造作だと定吉ちゃんなんだけど、あの屁っ放り腰が頼りなくってさ。
――それに何より、わっちが妖狐だって知ってるのに好いてくれてる。
そんな変態、良庵せんせと賢哲さんくらいだと思ってたから驚きだよね。
でもなぁ、与太郎ちゃんって……わっちとシチと比べてさ、どっちが可愛いか決めらんないって言ったんだよなぁ。
縁側に三人でわっちを挟んで座ってさ、与太郎ちゃんが買ってきてくれた団子を食べる。美味しい。もっちもっちと食べ終えて、ずっと気になってたこと聞いてみたんだ。
「ところで二人はさ――」
「なんだいしーちゃん?」
「どうしただしーちゃん?」
「どうしていっつも二人一緒でわっちに会うの?」
前から不思議だったんだよね。いっつも定吉ちゃんの道場終わりに三人でこんなして会ってるんだもん。
わっちの言葉に二人が顔を見合わせて、先に口を開いたのは定吉ちゃん。
「抜け駆け厳禁なんだ」
「そだ。抜け駆け厳禁。せめてもしーちゃんが十六んなるまでは」
「年が明けたらオイラもしーちゃんも十六。そこからが本当の勝負!」
「んだんだ。定吉ちゃんとそう決めてあんだ」
あらら。男の子って変なとこで団結するんだね。
でもなんか、ちょいと可愛いな、って思っちゃった。
だから二人に順番にニコッと微笑んで、さっと手伸ばしてそれぞれの手を握ってあげたらさ、二人揃って顔真っ赤っか。可愛い〜。
でもさ、二人には悪いんだけど――
わっちの男を見る目、
なんてったってめちゃくちゃカッコ良かった男の人知ってるからね。
良庵せんせと……聞いた話だけど賢哲さんも。
出来る事ならあの二人くらいにカッコ良くなってくんなきゃ。
ってそれじゃなかなか良い男見つけらんないだろうなぁ。
でもま、まだまだ長い残りの余生。
色んな男
◇◆◇◆◇
「お――おぃっ! 番外三つやるっつうから一つは俺らの出番だと思って準備してたんだぜ!?」
「さすがに次はお葉ちゃんたちよねぇ?」
「俺らの出番なし!? 俺あんな頑張ったのに酷えじゃねえの!」
だって菜々緒ちゃんたちの話だと
「そ――ん――な事ね――ぇこともないな。ホントだな菜々緒ちゃん」
「否定できないねー。だってそれが菜々緒たちの仕事だもん!」
「俺なんてたまに
年中励んでなんかもう結構いっぱいポコポコ産んだらしいよ菜々緒ちゃんとこ。
黒狐の里に若い男いないかな?
一度覗きに行ってみるのも良いかもしんないなぁ。
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