第46話 暴かれた罪 2
「本当に消え去ったのね」
二人は祈りの間に戻ってきていた。
ランゼーヌは、見下ろしていた呪いの箱庭があった場所を見つめ呟く。
「はい。消えてしまいました」
クレイも横に並び、窓から森を眺め言った。
二人は、これからどうなるのだろうと考え、頭を悩ます。
ここで一年間は、祈りを捧げる予定だった。だが、蓋を開けてみれば一日どころか、あっという間にお勤めは終了した事になる。
ランゼーヌが、ここにいる意味がなくなった。いや居られないだろう。なにせ、呪いを解く為にここで祈りを捧げるという体裁だった。
本当に呪われていたかどうか別として、祈る為の場所がなくなったのだからお役御免だ。
(お給料ってどうなるのかしら? 一年分出る? いや一日分もでないかも……)
借金の返済にあてるかどうか悩んでいたのが、おかしいくらいだった。
ランゼーヌは、隣に立つクレイを見つめる。
(爵位を捨てて、ほ、本当にクレイ様と結婚しちゃう? 借金も放棄して。って、無理だろうなぁ。お父様は、クレイ様のお給料をあてにするかもしれない。誰が継いだとしても、借金が消えるわけではないのだから。困ったわ。借金が付いて回るわ)
ジッとクレイを見つめ考えこんでいると、彼がランゼーヌに振り向き視線が合う。
ランゼーヌは、ドキッとして俯いた。
(見つめていたのがバレちゃったわ)
「ランゼーヌ嬢。大切なお話があります」
照れて俯くランゼーヌに、クレイは静かに語りかけた。顔を上げればクレイは、真面目な顔つきで見つめている。
「あ、はい」
結婚の件だろうかと、どきどきとしてクレイの言葉を待つ。
「名前の件ですが」
「はい」
「結婚してもパラキードを名乗れないと思います」
「え!?」
確かに結婚の話だったが、内容的にはピュラーアの契約の件だろう。
「申し訳ありません」
クレイは、頭を下げた。
「そ、そんな、謝る必要はありません」
『本当にまじめな奴だな』
『そのようね』
ワンちゃんもピュラーアも、一緒に祈りの間について来ていた。
リダージリ国には、結婚などの際に代表者の許可があれば、家名は名乗る事ができる。なので、クレイの弟のドワンが爵位を継ぐ事になっていたとしても、結婚の際にクレイ・パラキードと名乗る事はできた。ただ子爵ではなくなるが。
「そんな謝らなくても。クレイ様が悪いわけではないでしょう」
「……確かに、私が悪いわけではないですが、私のせいであると思います」
頭を上げたクレイがそういうが、ランゼーヌには意味がわからなかった。
「それってどういう意味でしょうか」
「父上は、私にパラキードを名乗ってほしくないという事です」
「そんな、なぜ!?」
爵位を継がせるかどうかは、一人にしか継がせられないから仕方がないとしても、クレイは騎士の家系で、騎士になっているので拒否されるなど、普通はない事だ。最初から平民でもないのに、家名を名乗れないのは不名誉な事でもある。
「たぶんですが、私が父上の本当の子ではないからだと思います」
「え! あ……」
そういえば、母親とでさえほとんど話した事がないと言っていたと、ランゼーヌは思い出す。
「そうですか。色々なんですね」
「はい……」
ランゼーヌの親は、血のつながりがあるからこそ、息子に継がせようとしている。
逆に、クレイが自身の子ではないから弟に継がせるつもりなのだ。
クレイは、あの婚約の顔合わせで色々な事が自分の中でケリがついていた。
ジアンナの「聖女だった」というセリフですべてが判明したのだ。なぜ今まで気が付かなかったのかと自分を笑っちゃうぐらい。
逆算すれば、ジアンナがクレイを産んだのは16歳だとわかる。聖女だったならお勤めを終えすぐにクレイを授かった事になり、もちろん姉であるケリーはジアンナが産んだのではない事は明白だ。
ケンドールの態度を見れば、クレイが彼の子ではないだろうと推測もできた。ジアンナがやっと乗り越える事ができたと、今までの事を謝って来た事を踏まえれば、クレイがジアンナの本当の子だろうとも推測できる。
ただこの事に気づけなかったのは、生活をしていて前妻や後妻という単語を耳にしなかったからだ。クレイを他の者の子という使用人達の噂も一切聞いた事がなかった。ジアンナは、部屋から出て来なかった事もあって、年齢的な事でケリーを産めるはずがないという使用人もいなかったのだ。
まるで、ジアンナが後妻だと知らなかったのではないかと、クレイが勘繰るほどに。
二人が望んで結婚をしたのではないと、クレイはその時に気が付いた。政略結婚とも違うだろう。ケリーという幼い子がいたのにも拘らず、まだ年若いジアンナと再婚。どう考えても、ケンドールが逆らえない相手に、ジアンナと再婚をするよう促されたとしか思えない。
だったとすれば、クレイにパラキードを名乗ってほしいとは思わないだろう。一番いいのは、婿に出す事。
貴族の騎士が結婚後家名を名乗れないのは、不適切な者とみなされたと同じ事でもありケンドールとしてもさけたいはずだ。だからこそ婿にと思った。王立騎士団所属なのに、パラキードを名乗らせなければ世間的になぜにとなるが、婿に行けば自然だ。何せもう一人、息子がいるのだから。
そして、姉のケリーはきっと、すべてわかっていたに違いない。少なくともジアンナが、自分の母親ではないとわかっているはずだ。ケリーからは何も聞かされていないし、本当の弟の様に接してくれていた。彼女がいたから、今のクレイがある。クレイが唯一、気を許せた相手だった。
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