第47話 暴かれた罪 3

 「お疲れ様です、ランゼーヌ様。今、ティーをお入れしますね」


 祈りの間から出てきたランゼーヌをリラが労う。

 祈ったわけではないが、凄く疲れていたランゼーヌはボフンとソファーに座った。

 リラがランゼーヌの前にティーを置くと、クレイが毒味を行う。


 「どうぞ、お飲みください」

 「ありがとう。いただくわ」

 「あ、クレイ様もどうぞ」


 自分とクレイの分も入れ、リラはテーブルに置くとソファーに座った。クレイも腰を下ろし、素直にティーを頂く。クレイもまた精神的に疲れ、喉がカラカラだったのだ。


 「で、どうでした?」

 「どうって……」


 ランゼーヌは、チラッとクレイを見た。


 「真剣にお祈りしておりましたよ」

 「何か見えたり、聞こえたりはしま……」

 「っぶ。ゲホゲホ……」

 「ランゼーヌ様、大丈夫ですか?」


 リラはただ、祈る事で何か見えたり聞こえたりするのかと、純粋に疑問を抱いて聞いただけだ。


 「だ、大丈夫よ」

 「本来は、祈ると精霊の像が七色に輝くそうです」


 そう言って、クレイがフォローした。


 「そうなのですか。あれでも、祈りの間に像なんてありましたか?」

 「ないわ。新しく作るのは無理みたいなの」

 「なくても問題ないかと……」

 『ここには必要ないものね』

 『なあ、ランゼ。これからは祈らなくていいのだろう? 昼からは俺っちと遊ぶ?』

 「………」

 (無邪気に遊べたらどんなに楽か……)


 それからランゼーヌ達は、夕飯時までは午前中にあった事が嘘のように、何事もなく過ごす。昼からも一応クレイと二人で祈りの間に入り、時間をつぶした。

 アルデンからとりあえずは、祈りの間に普段はいるようにと指示があったからだ。ただ、祈りの間では、ワンちゃんとピュラーアが姿を現し、こうしましょうか、あぁしましょうかと言って来る。二人の身を案じてだろうが、どれも頷けるような案ではなかったが楽しい時間ではあった。


 「そういえば知っておりますか? 呪いの箱庭が消えたという噂を」


 夕食時、ランゼーヌが一人食べていると、傍に仕えていた騎士のパレルモが言った。

 呪いの箱庭に面した窓があるのは、ランゼーヌ達が祈りの間として使っている部屋だけだ。だが、突然精霊樹が現れた事で確認をした騎士が、呪いの箱庭が消え去っているのを発見。

 イグナシオは、緘口令を敷いた。元々、王宮内で働く者しか知らない場所だ。というか、その場所自体も秘密にされていたのだから、騒ぐなという事だった。

 本当に消え去ったか確認したくとも、建物内からは祈りの間からしか見えない。後は、自身でその場に出向くしかないが、そもそも不用意にそこへ行くのも禁じられていた。


 「いえ、初めて耳にしました」


 そうランゼーヌは答える。本当にを耳にしたのは初めてなのだから嘘は言っていない。

 祈りの間のドアを開ける際には、窓のカーテンを閉めている。

 アルデンに、カーテンの外は見ていないと言うように言われていた。つまり、呪いの箱庭の存在の有無は、わからない事になっているのだ。なにせ、呪いの箱庭自体もなのだから。


 「そうですか。きっと、二人も噂を聞いて戻って来るでしょう。しかし、もし呪いの箱庭が本当に存在していて、ランゼーヌ様が祈りを捧げて消えたとしたら、ランゼーヌ様のお力という事になるのでしょうか」


 にっこりとしているパレルモだが、目が笑っていない。ランゼーヌを見つめるその視線は、彼女を見極めようと突き刺さって来た。


 「そ、そうだといいですね」

 『こいつ勘がいいな』

 『ワン。彼は、わざとあぁ言っているのですよ』

 『わざとって?』

 『ランゼーヌを試しているのでしょう。彼女が何者なのかを』

 『聖女だと思ってないって事か?』

 『呪いを聖女が浄化すると言われていても、実際にそれを感じた事はないでしょう。最初の頃ならいざ知らず、今日こんにちなら形だけのモノ。聖女協会が、力を維持する為の道具』

 『なに! ランゼが道具だというのか!』

 『最終的には、そうなる組織です。呪い自体も弱まっていますからね。ただ泣いた子供という事にはなっていますが、それは産まれた子という意味で、大人になっても泣けば呪いが発動します』

 『じゃ、王族が泣けば呪いが広がるって事か?』

 『そうなりますね。だからこそ、全国で祈らせているのです。子孫が国中にバラけてもいいように』

 (ピュラーア様って凄い。そこまで考えていたなんて。でもそこまで考えが及ぶなら、もう少し違う解決方法がなかったのかしら?)


 ランゼーヌは、鋭い視線を向けるパレルモが気になり、その後はおいしく頂けなかった。

 その後、戻って来たリラとクレイは、パレルモが言う様に消えた呪いの箱庭の噂を聞いて喉って来たのだ。


 「ランゼーヌ様! 呪いの箱庭が消えたっていう噂があるらしいんです」

 「そうみたいね。パレルモ様が言っておりました」

 「大きな木が出現したという噂もあるんです。どっちが本当なのでしょうね。あのランゼーヌ様、明日チラッと覗かれたらどうですか?」

 「ランゼーヌ様、その件ですが、明日、陛下と枢機卿が祈りの間の窓から確認したいという事で、お見えになります」


 クレイは、そういう打ち合わせをしてきていた。


 「そうなの? わかったわ」

 「じゃ、結果教えて下さいね!」


 リラは、噂の真相を知りたいというより、呪いの箱庭が消えていてほしいのだろう。

 明日は、これからの事を話し合う、いや告げられるのだろうとランゼーヌは思い、どうするか決まったのだと不安な夜を過ごすのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る