第42話 なぜこうなった 3

 「えぇ、ランゼーヌ様はそのような事は考えないでしょう。しかし彼女の周りの者もそうとは限りません」


 アルデンの言葉に、クレイは思い当たる人物がいた。ランゼーヌの両親だ。

 爵位を継ぐはずのランゼーヌを家から追い出し、息子に継がせようと策略していた。もしそういう人物だと知られれば、いやもうすでにわかっているから言っているのかもしれない。

 クレイは、モンドが婚約誓約書を持って来て、アルデンと会っている事を思い出した。


 「必ず私がランゼーヌ様をお守りします。ですので善処をお願いします」

 「え……あの、クレイ様」


 クレイが深々と頭を下げお願いを申し出るが、アルデンはそれをジッと見つめるだけだ。

 ランゼーヌはどうしたらいいのだろうと、考える。


 (一番いいのは、契約を破棄してもらう事よね。契約していなくてもワンちゃんならきっと、傍に居てくれるわ)

 「あの私が契約を破棄すれば……」

 『俺っちはしないぞ!』

 「え!?」

 『私もできません。あなたを殺す事は望んでおりませんので』

 「えぇ!?」


 ランゼーヌの話の途中で拒否したワンちゃんに驚くランゼーヌだが、ピュラーアの言葉にその意味を理解して更に驚いた。


 「それって契約は死ぬまで解除できないという事!?」

 『そうです。あなたが消えるまで他の者とも契約できません』

 「「………」」

 (勝手に結んでおいて、それはないんじゃない!?)

 『あなたは最強の力を手に入れたのですよ? 彼があなたに何かしようとしてもできません。もちろん、王が行おうとしても』

 「そうかもしれませんが、私はそんな力はいりません。それに契約者しか守らないのでしょう?」

 『願えば彼もお守りしますよ』


 ピュラーアが、クレイをチラッと見た。

 そうするとクレイは、両手をギュッと握りしめ、唇をかむ。

 守りたいと思った相手に守られる存在。彼にとって屈辱だった。


 「私は、彼女を守りたいのです。彼女の枷になるなら死を選びます!」

 「え……」

 (何でこうなるの? これじゃピュラーア様を助けた意味がないわ)

 『泣くな、ランゼ。俺っちがいるだろう』


 気が付けばランゼーヌの瞳からは涙があふれていた。


 「わ、私は、ピュラーア様の契約を望んだわけではないのに、そのせいでこうなったのよ! あなたは人間の事をよく知っているでしょう? こうなる事も予測できたはず。なのになぜ!」

 『そうね。ある程度は予測はしていたわ。でもあなた達の関係までは予測出来ないわ。契約はあなたを守るものだったのだけど……そうねランゼーヌ、あなた今すぐに結婚しなさい』

 「え!」

 「本当に突拍子ないな、精霊王は!」


 イグナシオは、アルデンに任せ口を挟まないつもりでいたのだが、つい口を挟んでしまう。

 ランゼーヌとクレイは、顔を真っ赤にさせていた。


 『それは、名案だ!』


 喜んでいるのは、精霊側だけだ。


 「まず、なぜそれが名案なのかご説明下さい」


 アルデンが、そう言って説明を問う。


 『ランゼーヌと契約している精霊が二人だからよ』

 「それではわかりません! もっとかみ砕いてご説明願います」


 アルデンが、少しイラっとしたように言った。


 『俺っちは、ランゼの魂と契約しているからさ』


 ワンちゃんが、そう説明するもそれだけでは不十分だ。なので、その続きをピュラーアから聞こうと皆、ピュラーアに振り向く。


 『私は、彼女の名に契約しているの。だから名が変われば契約は消滅するわ。魂との契約を行えるのは一度のみ。なので私は、名と契約したのよ』

 「わざとですね?」


 アルデンが更に怒っている様子を見せた。遊ばれている。そう感じたからだ。


 『私はあなた方の質問に答えたまでです。契約も彼女が結婚すれば、いずれ消滅していました。ランゼーヌを守るのはワンだけで十分でしょう。本当に人間ってなぜ本当の事を言うだけで怒るのかしらね』

 「………」

 「……っぷ」


 アルデンが負かされているのを見て、我慢が出来ずにイグナシオは噴出した。


 「陛下、何がおかしいのでしょう?」

 「いやすまん。ごほん。その件賜りました、精霊王」

 「「え!?」」


 なぜかイグナシオが精霊王に返事をした為、ランゼーヌとクレイが驚く。


 「さて、一度戻ろうか。アルデン」

 「そうですね。しかし、このままここから戻るとなると……」


 王宮内でも王族が住むエリアは、騎士が守るドアを通らなくてはならない。一か所しかないので必ずそこを通る。そこから出ていないのに、そこから入るのなら不思議がられるだろう。まあ知らんぷりすれば、何も聞かれないだろうが……。


 「もし可能なら精霊王に送っていただくのはどうでしょうか」


 クレイがそう提案した。

 アルデンの言いたいことが、クレイにもわかったからだ。緊急事態が起こらなければ、ドアを使用する事を知っていた。


 「可能か? 精霊王」

 「先ほどは、こちらに呼ぶのも元の場所に戻すのも同じ事だったので、呼び寄せたまで」


 イグナシオが問うと、ピュラーアはそう答えた。つまり送らないという事だ。


 「私のお願いなら聞いてくれる?」


 慌ててランゼーヌが言うと、ピュラーアは頷く。


 (それぐらい簡単に出来るなら、私がお願いしなくてもやってあげてよ)


 ぐったりと疲れるランゼーヌだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る