第41話 なぜこうなった 2
(契約ってどういう事!?)
ランゼーヌは、混乱していた。
意味は何となくわかる。精霊についての本に書いてあったのだ。精霊は、認めた人間と契約を結ぶ事があると。それは、聖女とはまた違うとも。ただ認められる為の条件は、いまだにわかってないとも書いてあった。
「いや、待て。なぜ
イグナシオが、一緒に驚いているランゼーヌに問う。
「え? わ、私も今聞いたものですから……」
そうしか答えようがない。
「おや、では勝手に契約をしたと?」
ランゼーヌの返事にアルデンは、そう言いながらピュラーアを見た。
『いいえ。ちゃんと手順を踏んでおります』
『俺っちとも契約を結んでいるぞ』
「え? いつ?」
まさかのワンちゃんの言葉にランゼーヌは、叫んだ。
ピュラーアとの契約の事は一旦置いておくとして、ワンちゃんとの契約は嫌ではない。本には、契約した精霊とその人間は、生涯を共にすると記載されていた。
生涯と言っても人間が死ぬまでの間の事だろう。
ランゼーヌには、ワンちゃんと契約した記憶がない。いやそう言われたのが今だ。
『いつってお願いを聞いてくれただろう?』
「お、お願い!?」
それが、契約を結ぶ手順だったのかと驚く。
「あ、この結界を解くってやつ?」
『違うよ。名前を付けてくれただろう』
「名前!? 確かに考えてって言われたけど……」
『俺っち嬉しかったんだぁ。ランゼとずっと一緒に居られるし、次期精霊王ほぼ確定になったし』
まさかそんな事で契約が成り立つとは思ってなかったランゼーヌは、ポカーンと喜んで彼女の周りを飛ぶワンちゃんを見つめた。
「いや待て。今、なんと言った? 次期精霊王になると言ったか?」
『そうだ。俺っちこれでも上位精霊なんだ。だから名前を貰うと、次期精霊王候補になるんだ。今のところ俺っちだけだからさ』
イグナシオの問いに、凄く嬉しそうにそして自慢げにワンちゃんは言う。
「はぁ? では何か、彼女は現精霊王と未来の精霊王の加護を受けると言う事になるのか!?」
「それもそうですが、ならば、ランゼーヌ様を通してですが精霊王であるピュラーア様のお願いを実行した私達とも契約を結んだ事にはなりませんか!?」
『なりません』
アルデンが、興奮気味に問うがあっさりとピュラーアが否定して返すと、その場がしーんと静まり返った。
「な、なぜです……」
アルデンが、納得が行かないという顔つきで問う。
『人間の王と枢機卿は、義務だからです。本来ならランゼーヌを見つけた時点で、私を通さず共行う行為なのです。ですので、こうなる事もあるだろうと取った策が功を奏しただけです』
「………」
ピュラーアの言う通りだった。
祖先とそういう約束を行っていたのだから。
「あの、だったら私も契約にならないのでは?」
『いいえ。あなたは、私のお願いを聞いて下さいました。言いましたよね? あなたに拒否権はあると』
確かに言われたと思うランゼーヌだが、断れる状況ではなかった。けど、イグナシオとアルデンとは違い、ただ条件を持った者なだけ。他が居れば、その者が行う事も可能だ。
そして、あのピュラーアが命じなくとも、ワンちゃんがランゼーヌを守るはずというのは、契約した人間だったからとランゼーヌは気づく。
「ねえ、ワンちゃん。もしかして、名前を貰ったらとかピュラーア様から言われた?」
『うん? あぁ、助言を貰った。ランゼは、俺っちが傍に居たいと思った人間だからな。だから契約した』
(やっぱり!?)
ランゼーヌは、グルンとピュラーアに向いた。
ピュラーアと目が合うと、にっこりとほほ笑んだ。
精霊王ピュラーアの作戦は、ワンちゃんが名前を貰うところからすでに始まっていた。ただ五年ほど時期がズレたが、精霊にとっては些細な時間。
もうあの時からランゼーヌは、ロックオンされていたのだ。
(思いっきり嵌めておいて、何涼しい顔をしているのよ、この精霊王はぁ!!)
でもそのおかげで、ワンちゃんとずっと傍に居れるのだが。
「それで、契約した人間にはどんな加護があるんだ?」
『望むことの手助けです。彼女は謙虚なようで、ワンによれば、ほとんど頼まれた事はないと言ってますね』
それはそうだろうと、人間側は思う。
契約を結んでいるなどと思ってないかったのだから。
「話はわかりました。しかし参りましたね」
アルデンは困り顔で言うも、イグナシオはそれをジトーっと見ていた。
「そうなると彼女をこのまま放置はできません」
「え!?」
「お、お待ちください。彼女は、力を得たからとそれを悪用するような者ではありません」
アルデンが何を言いたいのか察したクレイが、ランゼーヌの前に立ちそう言った。
精霊と契約する事すら珍しい事なのに、それが複数と結び――いや、一番重要なのは、現精霊王と次期精霊王との契約という事だ。一番力がある精霊。もし自身も精霊と契約を結んだとしても、対等にはならないのだ。それに彼女に悪意がなくとも、他の者に知れれば悪用される可能性がある。
精霊は、人間の善悪で物事を判断しない。なので、ランゼーヌが望めば世界が滅びる事ではない限り聞くだろう。
しかもピュラーアは、アルデン達から見れば厄介モノだった。
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