第40話 なぜこうなった 1
『ランゼ~』
呼ぶ声にランゼーヌはハッとして、声の方に振り返った。
数十分ぐらいしか離れてなっかたのに凄く懐かしい姿に見えるワンちゃんが、嬉しそうにランゼーヌに近づいてくる。
そして、その奥に見える二人の姿に安堵した。
少し険しい顔つきだがそれは怒りからではなく、驚きからだろう。イグナシオとアルデンは、世界樹を見上げていた。
「本当に存在していたのか」
イグナシオがボソッと呟くと、クレイも我に返り彼らに振り向く。
「ご無事でしたか」
クレイはそういうと、深々と二人に頭を下げた。ランゼーヌも慌てて頭を下げる。
「よい。二人は悪くない」
頭を下げる意味を理解したイグナシオは、二人に言った。
取りようによっては、ピュラーアと結託して二人を送り出した事になるからだ。
「ありがとうございます」
礼を言って二人が顔を上げれば、イグナシオは満面の笑みで二人を見ていた。その視線を先ほどまで二人が見とれていたピュラーアに視線を移す。
「そなたが、ピュラーア王か?」
『はい。お手間を取らせたようですね。ですが、この者達は……』
「わかっている。二人も振り回したのだろう? 私の様な温厚な王でなければ大変な事態になっていただろうな」
「温厚ね。短絡なだけでは」
「何か言ったか? 枢機卿」
「いいえ。何も。今回は私も乗っかりましたので」
「ほほう」
イグナシオは胸の前で腕組をして、隣に立つアルデンを怪訝な顔つきで見た。
「そんな目で見ないでください。少し興味があっただけですので。もしかしたら私も知っているはずだった秘密に」
なるほどとイグナシオは頷く。
アルデンが知っていたかもしれない秘密。それは、王位を継いだ者しか知りえない秘密だ。つまりは、そのまま王子として育てられていれば、アルデンが王になっただろう。さすれば、彼も知りえた秘密の場所の存在。
枢機卿という立場だった為、偶然そういう場所がある事を知ったアルデンは、知りたいという欲に負けたのだ。
「そなたでも考えなしに行動する事があるのだな」
「失礼な。
こほんとわざとらしい咳を一つして、アルデンはイグナシオに言った。
精霊樹は、ランゼーヌにしか見えていなかったが、精霊樹に集う七色に輝く精霊達は、アルデンにも見えていたので、そこに精霊樹があるという言葉で納得。
それと、イグナシオがここに結界が張ってあると言っていたのだ。
自分以外に精霊が見える者がいるのは、アルデンは知っていた。歴代の枢機卿のほとんどが見える者だったからだ。その者でも結界は見えていないだろうと思われた。
アルデンでさえ、イグナシオに言われなければ結界が張ってあるなど思わなかった事だ。
では、結界が張られた呪われた場所になぜ精霊が集まっているのか。その答えをランゼーヌが語った。なので、精霊王の言葉だと確信に至ったのだ。
ランゼーヌは、アルデンの言葉に少しホッとした。
疑心暗鬼のまま向かったわけではなかったのだ。自分の言葉を信用し向かっていた。精霊王のお言葉として。
「結界が解けたらここへ転送されるようになっていたのですか?」
クレイがぼそっと、ピュラーアに聞いた。
「いいえ。二人がそう望んだからです」
「精霊王は何でもできるのだな」
ピュラーアの答えを聞き、イグナシオが関心したように頷く。
「陛下、関心していないで何か精霊王に言う事はございませんか?」
「そうだな。まずは、人間を代表して礼を言おう。この世界が滅びなかったのは、そなたのおかげだ。ありがとう」
イグナシオの言葉に、ランゼーヌとクレイは驚きを隠せない。
憤るところか、感謝したのだ。
イグナシオもまた、ランゼーヌが言った言葉が精霊王の言葉だと信じ向かっていた。
自分には一切精霊は見えない。だが、箱庭の結界は見えていた。きっと歴代の王族の中にもその結界が見える者がいただろう。
何の為に結界が張られているのか、それは呪いを封じる為。ずっとそう思っていたが、呪われていると思っていた場所に精霊が集まっていたと聞き、逆だったのだと気が付いた。
そう精霊王が言ったように、呪われない様に結界を張っていたと確信したのだ。
アルデンに精霊が集まっているとは聞いてはいなかったが、ランゼーヌが言った精霊が集まっているという言葉には反応はしていなかった。つまり、知っていたという事だ。
二人は、確信していた事は語らなかったが向かう事に反対しなかった事により、相手も信憑性があると思っていると互いに思って行動していたのだった。
「……だが、やり方は少々いやかなり強引だったな。一番被害を受けるのはこの二人だろう。精霊王に対して、何か処罰を科すわけにはいかない。ならその矛先は彼らに向かう。彼らは、捨て駒か?」
『いいえ。ランゼーヌが結界を解けば、彼女は私の契約者となるのですから、あなたより守るべき存在になります』
「「契約者!?」」
ピュラーアの突拍子もない言葉に、その場にいる全員が驚きの声を上げた。
本当にいつも奇手を使うなとアルデンは驚きつつも関心してしまうのだった。
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