第39話 決断 5
二人はゆっくりと、精霊が集い七色に輝く大きな精霊樹がある箱庭へと進む。もちろん精霊樹が見えているのは、ランゼーヌだけだ。
「怖くない? 大丈夫?」
クレイが気遣いそう聞いた。
呪いの箱庭と言われるように、朽ちた木の柵に囲われ精霊樹以外は荒れ果てた土地。
ランゼーヌも精霊樹が見えなければ、おののいていただろう。
「大丈夫です。ただ、本当に結界があるとは思えなくて……」
そもそも本当に結界があるのかという疑問がランゼーヌにはあった。それ以外の精霊や精霊樹が見えてしまう彼女には、そっちの方に引っ掛かりがあったのだ。
「どうでしょう。ただなかったらとしたら本当は何をさせたいのかという新たな疑問が生まれます。私的には、ずいぶんと手の込んだ方法を取るのだなと思うところです」
箱庭の前に来てそれを見つめクレイはそういった。
クレイは、話の真実よりも方法が気になっていたのだ。確実に結界を解かせる方法を相手は取っている。
精霊の儀もこの時の為でもあったのだろうと、クレイは確信していた。
チラッとクレイは、隣に立つランゼーヌを見る。
聖女を探す儀式がこの時の為ならば、男の自分では結界は解けないのかもしれない。
『……ランゼーヌ』
「あ……」
「どうしました?」
今回ははっきりとピュラーアの声が聞こえたランゼーヌは反応してつい声を出した。
「話しかけられました」
ランゼーヌの答えにクレイは、真剣な顔つきで頷く。ランゼーヌは目を瞑った。
(目の前に来ましたよ)
『ありがとう。お願いします。どうか私の願いを叶えてください』
(え?)
急にすがる様な言い方にランゼーヌは驚く。
今までは精霊王と名乗っただけあり、威厳がある感じだった。
『おわかりの様に、私自身では何も出来ないのです。ここまで整えておきましたが、結局はランゼーヌ、あなた次第なのです。もし無理でも二人は元の場所へと送り届けます。その後の事はワンに任せます。ここから解放されない限り、結局精霊王として力を発揮できないのですから』
(ワンちゃんに任せるって、もう精霊王にするって事ですか?)
『いいえ。人間の王制度の様に権利を渡すという事ではないのです。わかりやすくいうと、私が精霊王としての力がなくなった時にワンが自然に精霊王になるという事です。任せると言ったのは、あなたの事です』
(え? 私の事?)
『ワンなら言わずともあなたの事を守るでしょうが、権力者からあなたを守るという事です。彼らが私の事をどうしたいと思っているかわかりませんが、どちらにしてもあなたをそのままにはしないでしょう』
(確かにそうだわ)
ランゼーヌは、秘密を知る者となる。そして、箱庭の結界を解く者の一人。後で色々と策を練った後に結界を解こうと思うなら生け捕りにしておくかもしれないが、結界を解く事をよしとしないのならばランゼーヌがいなければ解けないのだから始末する事だろう。
それから、この秘密を知っているもう一人のクレイもまたどうなるかわからない。
ピュラーアは、ランゼーヌの身は結界が解けても解けなくても、保証すると言ってはいるがクレイは含まれてはいないだろう。
クレイの存在を認知していない可能性もあるが、ワンが伝えている可能性の方が高い。いやこの精霊の儀の仕組みを作ったピュラーアが、クレイの存在を知らない方が不自然だ。
つまりピュラーアには、クレイの存在はどうでもいいのだろう。
ゆえにこう答えるしかない。
(結界を解きます!)
『ありがとう。ランゼーヌ。では、手を伸ばし柵に触れ、解除と告げて下さい』
ランゼーヌは頷くとスーッと手を伸ばす。伸ばせば届く位置に居たランゼーヌの手のひらは、ひんやりとした腐りかけた柵に触れた。
見守っていた隣に立つクレイは、急に手を伸ばすランゼーヌ驚く。
「待って!」
「解除します」
クレイが慌てて止めようとしたが、ランゼーヌはピュラーアの言う通りに言葉を放つ。
ランゼーヌが触れている柵から光が発せられ、それが全体へ広がった。そして、あっけない程に柵は、砂の様に崩れ落ちる。
手を伸ばしたままのランゼーヌも止めようとしていたクレイも、消え去った柵の向こう側を唖然と見つめた。
目の前の荒れ果てた箱庭は、柵が崩れ落ちると同時に周りの森と同じく緑豊かな姿へと変わっていく。
朽ちていた草木が瑞々しく緑化していき、大きく育っていった。
精霊樹も更に大きくなり、その根が森へと広がっていく。
心地よいそよ風が、二人を包む。
『ありがとう、ランゼーヌ』
二人の目の前にピュラーアが現れた。
七色の輝きを持つ羽、深緑の長い髪にスカイブルーの宝石の様な瞳。果実の様に瑞々しい唇。
人型を取ったピュラーアの体には、グルグルと蔦が巻き付いている。胸の辺りから足まであり、まるで森の人魚のようだ。
ランゼーヌとクレイは、神々しいほど美しい
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