第38話 決断 4
ランゼーヌとクレイは、窓から呪いの箱庭を眺めていた。
「先ほど、精霊王と会話したようですが、あのワン殿とは前から会話が出来ていたのですか?」
「え?」
クレイは、ワンちゃんが見えていたとはまだ、ランゼーヌに告げていない。ランゼーヌもワンちゃんが見えているようだとは思っていた。先ほどの会話からそれは当たっていたのがわかったが、会話が出来ていたかがわからない。
特段意味があって聞いたわけではないが、ランゼーヌの事は何でも知りたかった。
「はい。いつも話し相手になってくれました。精霊だからなのか、他国の言葉もわかるんですよ」
ランゼーヌが嬉しそうにワンちゃんの事を語ると、クレイは自分も他国の言葉を覚えようと、敵対心を燃やす。
『……ーヌ』
「うん?」
「どうしました?」
「呼ぶ声が聞こえたような……」
そう答えたランゼーヌは、ピュラーアかもと思い目を閉じる。
(呼びましたか?)
『気づいてくれましたか。お呼びしました』
(何かありました?)
『結界前まで来て頂けませんか』
「え!?」
「どうした?」
つい驚いてランゼーヌは、声を出した。
ランゼーヌは目を開けると、クレイに助けを求める様に見つめる。
「もしかして、精霊王が何か言って来たのですか?」
「そ、それが、目の前に来いと」
「目の前って箱庭の前にですか?」
そうだとランゼーヌが頷くと、二人は窓から箱庭を見下ろす。
「まずは、勝手に動けないと伝えて下さい。それと向かう目的も聞いて下さい」
クレイに言われ、ランゼーヌはこくんと頷き目を瞑った。
(あの、許可なしにここから動けません。なぜそちらへ行かなければいけませんか?)
『二人が封印を解く準備が整いました。あなたがこちらに来て結界にふれなければ、結界が解けない仕組みです』
(どういう事ですか?)
『つまり二手にわかれて封印を解くという事です』
(だったら陛下か枢機卿が残ればよかったのではありませんか!)
『いいえ。彼らが一緒ではないと封印はとけないのです』
(あ、そうでした。では、戻るのを待てばいいだけではないでしょうか。あちらも結界の解き方を知ったのですよね?)
『えぇ、読み終えれば知るはずです。ですが、結界が解けない限り戻ってはこれません』
(それってどういう事!?)
まさかの事態にランゼーヌは焦る。
もしかして嵌められたのではないか。そう思うと、心臓がバクバクとなり始めた。
「大丈夫ですか? 精霊王は何と言っています?」
ランゼーヌが震えだしたのを見て、クレイが訪ねる。
「ど、どうしよう……私、とんでもない事を二人に告げたのかもしれない」
「とんでもない事って?」
「封印を解いた場所からは、結界を解かないと戻れないみたいな事を……」
「なんだって!」
そう言ってランゼーヌは泣き出した。
『誤解です。最後まで聞いて下さい』
(誤解って。卑怯な事をして何を言うのよ)
『確かに卑怯な手です。ですが、確実に結界を解いてもらうのには必要だったのです。もし真実を知って隠ぺいされては困るのです』
(だからってこんなやり方! あなたは解放されるからいいかもしれない。でも私はどうなるの? 二人を陥れた事になるのよ)
『それは大丈夫です。結界が解ければ、私は皆の前に直接姿を現し話す事が出来ます。あなたの身の保証をさせます』
(……一体、私に何をさせる気?)
『特段、難しい事はありません。結界に触れればいいだけです』
「結界に触れる……」
「精霊王がそう言っているのか?」
ランゼーヌの呟きに、クレイが訪ねた。
震えながらランゼーヌは、そうだと頷く。
「それは君にしか出来ないのか?」
「わからないわ」
「聞いてみて」
ランゼーヌは、こくんと頷く。
(結界に触れるのは私でないと出来ないの? 条件とかある?)
『えぇ。精霊が見えるぐらいのマナ量を持ってないとダメなのです』
(……そう)
ランゼーヌは返事を聞いて俯いた。
「何と言っている?」
「精霊が見える人でないとダメだと……」
そんな人物は、数える程しかいない。聖女ですら精霊は見えていない。探すにしても、精霊が見えていると言う者はいないだろうから、いやどちらにしても今から探すのは無理だ。
「ランゼーヌ嬢、あなたはここに居て。私が行って来る」
「え? クレイ様が行ってもどうにもならないわ」
「試してみないとわからないだろう」
「でも……私も行くわ。ただ触るだけとは限らないし。タイミングとかもあるかもしれないから」
「そうだな。行こう。どちらにしてもそうしないと、ならないようだし」
クレイはそういうと、ここに来た時に通った秘密のドアを開けた。
ポツンと置いてある本棚をずらし、床をスライドさせると階段が出現する。中からしか開かない仕組みのドアだ。
「行こう。私が絶対にあなたを守る」
クレイが差し出す手を頷いてランゼーヌはとった。
そして二人は階段を降りると、馬車が通った観音開きの扉ではなく、人が出入りできる程の大きさのドアから外へと出る。そのドアも内側からしか開かない。
二人の目の前には、腐りかけている柵が広がっていた。
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