第34話 呪いの箱庭の真実 5
「あなたには、精霊樹が見えているのですね」
アルデンは、目線をランゼーヌに移し聞いた。
「は、はい。大きな木に沢山の精霊達があつまり七色に輝いて見えます」
「精霊も見えるのか」
イグナシオの驚きの呟きに、ランゼーヌはつい余計な事も言ってしまった事に気が付く。
「やはりあなたは、そのワン様という精霊がずっと見えていたのですね」
アルデンにそういわれ、今更隠しても仕方がないとランゼーヌは頷いた。
「父親は知りません。言っていないので」
俯いてランゼーヌはそう、付け加える。
「でしょうね。知っていれば、適齢期に精霊の儀式を受けさせていたはずですから」
アルデンの言葉にごもっともと、全員思った。
「それで精霊王は、この事を我々に伝えてどうさせるつもりですか?」
「精霊王の話によると、これが真実だと実証する為に王族と聖女協会の代表者二人が揃う事で封印が解け、そこに真実が描かれていると言っております」
「あそこだな……」
イグナシオが呟く。
「場所をご存じで?」
「王位を継承したものだけが知る事が出来る場所だ。だが入れた事はない。枢機卿が居れば入れるという事になるが……」
『それだけではダメなのさ。俺っちもいないとな』
「なるほど。人間側と精霊側が揃ってという事ですね」
アルデンの言葉の通り、人間側の条件だけでは封印は解けない様になっていた。そうでなければ、偶然に封印が解ける事もあり得るからだ。
「ふむ。では行こう」
「あぁ、ワン様。私はあなたの姿が見えますのでその場所までは、今まで通り他の方には見えない様にして下さい。祈りの間の外には、人がいますので」
『わかった。じゃランゼ、行って来る。心配するな!』
「うん。気を付けて」
ランゼーヌは、祈りの間を出ていくイグナシオ達に頭を下げ見送る。
祈りの間の外には、パレミオが待機していた。
一応、イグナシオ達と一緒に来ていたのだ。
パタンと閉じられたドアをランゼーヌは見つめる。
まだ言っていない事があった。いや一番肝心な事を伝えていない。
精霊王がしようとしているのは、呪いの箱庭の結界を解く事だと。
本当に封印が解け真実を目の当たりにしたとしても、呪いの箱庭の結界を解くのを躊躇う事無く許すだろうか。
そして、許し結界を解いた時、万が一思っていた事と違う事が起き、呪いが広がった場合、どうなるのだろうか。
そんな事を考えていたからだろうか、ランゼーヌの顔色は優れなかった。
「大丈夫ですか?」
「あ、はい。もしかしたらあなたにも迷惑をかけるかもしれません」
クレイは、少し驚きの顔をするもまたいつものポーカーフェイスに戻る。
「私の心配はご無用です。聖女の騎士は、聖女に命を捧げる覚悟を持ってお守りするのですから」
「え? 命をですか?」
「はい。あなたの代わりはいないのですから」
代わりはいない。その言葉に、ある意味そうかもしれないが、彼が言うのは、聖女の代わりだ。だがランゼーヌは、聖女ではない。
ただイグナシオ達に精霊王の言葉を伝える者としては、代わりはいないだろう。
「クレイ様、話しておかなくてはいけない事があります」
「何でしょうか?」
「本当は私、聖女ではないのです」
「え?」
クレイは、キョトンとする。
精霊まで見えているランゼーヌが聖女ではないと、泣きそうな顔で告げたからだ。
「この役目をする為に聖女に仕立てられたようです。選ばれた聖女の様に私には、浄化する能力はありません」
正確には、精霊が聖女のマナを源に浄化すると聞いたが、同じようなものなのでそう伝えた。
「ですが、精霊に選ばれたのは間違いないでしょう?」
「先ほど聞いた様にワンちゃんは私の傍にいた精霊です。聖女に選ばれたからあの時、現れたわけではありません」
「そうですか。それはわかりましたが、そこまで気にする事でもないと思いますが」
「ありがとうございます。でももし、私の聖女の資格が取り消された場合、婚約を破棄してください」
「え!? なぜですか」
「なぜって、婚約を続行する意味がないでしょう?」
自分から婚約を続行する意味がないというランゼーヌに、クレイは驚き悲しげな顔つきになった。
ランゼーヌは、もし万が一、聖女ではないと偽聖女ではなくても聖女を取り消されて、婚約誓約書の偽造が発覚すれば大変な事になる。クレイにも多大な迷惑がかかるのは、目に見えていた。
「ランゼーヌ嬢、あなたは誤解しています」
ランゼーヌ様でも聖女でもなく、ランゼーヌ嬢と呼ばれ、ランゼーヌは驚く。
「私は、ある事情から結婚などしないと思っていました。しかし、父が勝手に婚約者を見つけてきた。拒否する事も出来ましたが、何度も同じ事をする可能性があった為、婚約誓約書に私はサインしたのです」
(そうよね。元々どうでもよかったって事よね)
ランゼーヌは、俯く。目に涙が滲んだ。
わかってはいた。クレイの態度は、ランゼーヌに好意があるようには見えなかったから。ただ面と向かってそうだと言われるとなぜか、悲しかった。
「ですが今、そうしてよかったと思っています。それはあなたが聖女だったからではありません。あなたの力になれるからです」
「え……」
驚いて顔を上げたランゼーヌの頬を涙が伝う。
「す、すみません。またわかりづらい言い方をしてしまい、傷つけてしまって……」
涙を見たクレイは、凄く慌てた。
流れた涙は、溜まっていた悲しみの涙だが、気分的には嬉しさがこみあげていた。
「私は、相手の感情を察するのが苦手で、どう伝えていいかわからないのです。私が伝えたかった事は、私を頼って下さいという事です。何となくあなたと私は似ていると思ったから……」
「え?」
思いもよらない言葉に、ランゼーヌはじっとクレイを見つめる。
クレイは、ランゼーヌの味方はあの犬の精霊だったのだろうと思ったのだ。寂しい思いをした自分を重ねたのだった。
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