第25話 予想外な来客2

 「ねぇ、リラ。お食事を一緒にできないかしら。一人だと寂しいし食べづらいわ」

 「そうですよね。でもここ、一応王宮ですし許可がでるかどうか」


 ランゼーヌは、リラの返答にティーカップを置くと、うーんと考え込む。

 別々の料理だとしても、侍女が主人と一緒に食事はやはり無理だ。男爵家の娘だとはいえ、聖女なのだから。


 「でしたらクレイに一緒に食べてもらったらどうです?」


 意外な事をパレルモが発言し、二人は「え!」と振り向いた。


 「あ、一緒にと言っても彼は、立って食べられる食べ物です。ただ同じ時間、同じ場所で食事をするという事です。騎士ですので、馬に乗って移動中でも食べる訓練を受けているので、苦ではないと思いますよ。夕飯時以外は了承が得られるのではないかと思いますが」

 「それって、一緒に仲良くではないけど、一人寂しくでもないわね。そうね。私がそう望んでるって伝えてもらえるかしら?」

 「はい。戻り次第お伝えしておきます」

 「あ、そうだわ! ティーも自由に飲めるようにここにカップや茶葉を置いておけるようにできないかしら?」

 「では、それもお伝えしておきましょう」


 くすりとパレルモが笑うと頷く。


 「ありがとう。一人だとティーを飲んでも全然落ち着けないもの」


 もちろん、三人分のティーセットだとパレルモはわかっていた。


 「変わってますね」

 「え? そうですか?」

 「真逆です。普通の令嬢は、厚かましいと罵りますよ。仲良くしていただく分には、私は構いませんが」


 パレルモがニッコリと微笑むと、ランゼーヌは少し頬を染める。


 (真逆って……罵るのね。あぁ、あの女のような態度って事ね)


 ランゼーヌは、リラに対するアーブリーの態度を思い出す。

 パレルモが言う様に、侍女が口出しするなといつも言っていた。


 ふと、パレルモが立ち上がる。壁のランプが灯ったのだ。

 慌ててリラも立ち上がり、自分とパレルモのカップを片付ける。


 「早いな……」


 ボソッとパレルモが呟くと、ランプに触れた。そのままそこに立ち、クレイを待つ。

 トントントン。


 「ク、クレイです」


 やや、緊張気味な声に聞こえる。

 パレルモは、声音の違いの為かドアの外を伺う様に開けるが、クレイを確認するとドアを開けきり片膝を付き首を垂れる。

 クレイの後ろには、なぜか枢機卿のアルデンと見知らぬ男性がいた。

 慌ててランゼーヌは立ち上がり、頭を下げる。リラも一緒に下げた。

 枢機卿の横に立つ男性は、高貴な雰囲気が漂っていた。


 「頭を上げよ」


 そう述べたのは、枢機卿ではなく隣の男性だ。彼は、枢機卿と同じ髪と瞳だったので、ランゼーヌは枢機卿の親族でも連れて来たのかと思ったが、声を発したのが枢機卿ではなかったので驚いた。


 「ごほん。こんな時間に訪ねて申し訳ない」

 「陛下、そう思われるのなら私が申し上げたように明日になされば宜しかったのですは?」

 『こいつって偉いやつなのか?』


 (陛下ですって~!!)


 ランゼーヌもリラもびっくりして硬直する。


 「下がってよい」

 「っは」


 枢機卿の言葉に、ちらっとイグナシオが彼を見るがその言葉をスルーした。

 パレルモは、立ち上がるとドアを閉めて立ち去っていく。


 「「………」」


 一体何しに来たのだと、ランゼーヌとリラは顔を見合わせた。

 クレイが、一礼してランゼーヌの後ろへと回る。その移動中にランゼーヌは、どうして二人がと目で訴えるもクレイは、わからないと軽く首を振るだけだ。


 「立ち話もなんですから座りしましょう」

 「そうだな」


 枢機卿の提案にイグナシオが頷き、ランゼーヌが立つ目の前のソファーに二人は腰を下ろした。


 「さあ聖女様も座りなさい」

 「は、はい」


 すとんと、緊張気味にランゼーヌはソファーに座る。


 「あ、お茶!」


 リラは、どうしようとオドオドするが、枢機卿が手で制す。


 「お茶は結構です。飲めませんので」

 「し、失礼しました」


 ガバッと90度のお辞儀をリラはした。

 イグナシオは、ここで出されたお茶など口にしない。毒など入っていないとわかっていてもだ。


 「気にしなくていいですよ。勝手に訪ねてきたのですから」

 「そんな言い方はないだろう。私は、二人を祝福に来たのだから」


 イグナシオはにっこりと微笑んでそう言った。だが、三人はなぜ二人と首を傾げる。

 聖女になったランゼーヌを祝うならまだわかる。なろうとしてなれるものではないからだ。

 もう一人が、聖女の騎士になったクレイの事だとしても、どうして王であるイグナシオが祝うのかがわからない。

 確かになかなかなれないかもしれないが、王であるイグナシオが直接祝うほどでもない。


 「ランゼーヌ・ネビューラ」

 「は、はい」

 「そして、クレイ・パラキード」

 「はい」

 「婚約おめでとう」

 「「ありがとうございます……えぇ!!」」


 イグナシオの祝いの言葉に素直にお礼を言ってから、祝いの内容に二人は驚きの声を上げた。


 「あ、あの……まだというか」


 どこで婚約の顔合わせの最中だったと言うのを聞いたのだろうかと、ランゼーヌは慌てる。どちらかと言えば、破談になる話だ。


 「祝って頂いたのですが、正式には成立しておりません」


 クレイは、頭を下げそう述べた。

 ランゼーヌもそうだと、うんうんと頷く。


 「それを許可したから成立した。よかったな」

 「……え?」


 ランゼーヌは、なぜにと目を丸くする。


 「は?」


 クレイは、聞いた事がない間抜けな声が口から出て、そろりと顔を上げた。


 「話はネビューラ男爵から聞いた。彼が、婚約誓約書をわざわざ持参して来たので受理しておいた」

 「「………」」

 『はあ? あのやろう、何考えてるんだ? まあ、クレイと結婚は悪くはないだろうけど。あついつのする事だ。何か裏があるに違いない』


 ワンちゃんの言葉に、ランゼーヌは青ざめる。だとしても、この国で一番偉い人が許可してしまったのだ。今更取り下げるわけにも行かないだろう。


 「でも、なんで陛下がじきじきに……」


 ぼそっとランゼーヌが呟く。


 「あぁ、それは、あなたが聖女だからですよ。聖女だと判明する前でしたら、許可など必要なく届け出だけで済みますが、聖女の結婚は王家の許可が必要なのです」


 ランゼーヌのつぶやきを拾い、枢機卿がたんたんと答えた。


 (なんですって~。お父様、一体何やらかしてるのよ~)


 ランゼーヌは、軽くめまいを覚えるのだった。

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