第24話 予想外な来客1
30分も断たないうちに、椅子師がパレルモと一緒に訪れた。
赤い髪に白髪が混じっており思ったより年配で少し驚いたが、それよりも持参した椅子の数に三人は驚く。
「初めまして、聖女様。椅子師のカルピオと申します。誠心誠意務めさせて頂きます」
「はい、宜しくお願いします」
「では、こちらに」
『すごい数の椅子だな』
持ってきた椅子に座るように促され、ランゼーヌは静かに座った。その周りを興味津々で、ワンちゃんが飛び回る。
(あ、ワンちゃんが戻ってきた)
今回は、すぐに戻ってきたとランゼーヌは安堵した。
「こちらの椅子で疲れない高さを計ります。本来は成長に合わせに一年に数度伺う事もございますが、聖女様はこれ以上あまり背は伸びないと思われますので、しっかりとお計りします」
「はい……」
計って用紙にカルピオは、書き込んでいく。
「次は、素材を選んで頂きます。これも人によって硬い方、柔らかい方がよいなどがありますので、実際に座ってお選びください」
「はぁ……」
言われた通り、椅子に色々座ってちょうどよい座り心地の物を選んだ。その後、背もたれやひじ掛けの有無、祈りの時に肘を置くかどうかなど、色々検証する事になりすべてを終える頃にはランゼーヌはへとへとになっていた。
(椅子選びを侮っていたわ)
椅子選びをしながらカルピオは、色んな祈り方のパターンを話してくれた。もちろん見たわけではなく、椅子作りの時の注文だ。
聖女によっては、まるで横になるかのような体勢で祈るという子もいるらしく、背もたれを動かせる椅子を作った事もあった。
基本、祈る時は胸の前で手を組む。人によっては、背もたれに寄りかかったり、前かがみになったりと違う為、手も疲れないようにひじ掛け以外にも手を置く台を設置する。
カルピオにあった方がよいと言われ、ランゼーヌも祈りの台を付けてもらう事になった。
「つ、疲れた」
カルピオが帰っていき、どさっとソファにランゼーヌは腰を下ろす。
「思ったより、大がかりでしたね」
「えぇ、もうへろへろよ。椅子選びがこんなに大変だとは思わなかったわ」
その後、ディナーの時間になり侍女のジャナが食事を持ってきた。
「お食事をお持ち致しました。そちらにお並べ致します。それと、リラさんはパレルモ様と一緒に控室に行って、食事と休憩を取るようにと侍女長が言っていました」
「え、でも……」
「戻ってくるまでは、私がおりますからご心配はいりません」
「リラ。大丈夫よ。あなたも休憩するといいわ」
「はい。わかりました。では、失礼します」
リラは、パレルモと一緒に部屋を出て行った。
ディナーは、家では見ない豪勢な物ばかりだ。
「す、すごいわ……」
「何か嫌いな物や食べられない物はございますでしょうか?」
「いえ。一人では食べきれない量だわ。あ、ジャナも食べます?」
「え?」
「ごほん。ランゼーヌ様のお茶目なご冗談です」
ワザと咳ばらいをしてクレイが言えば、ジャナはニコリと微笑んだ。
「ありがとうございます。お気持ちだけで十分です」
「あ、はい……」
(そうだったわ。普通は一緒に食べないのだったわ。でも見られている中、一人で食べるのは食べづらいわ)
「どうぞ。食べて大丈夫です」
毒味を終えたクレイが言った。
「はい。頂きます」
ぱくりと食べれば、美味しさに幸せな気分になる。
「お食事時は、これからは私とリラさんが交代させて頂く事になります」
「え? そうなの……」
(なんだか寂しいわね。お父様達と食事をする時もリラは傍に控え、部屋で食事をとる時は一緒に食べていたから)
ランゼーヌは、美味しいのに食が進まない。
しーんと静まり返った部屋で一人黙々と食べるのは味気なかった。
「ふう」
「もう宜しいのですか?」
「えぇ。出来ればこの半分の量でいいわ。勿体ないですもの」
「勿体ないですか……承知いたしました。その様にお伝えします」
ジャナが片付ける中、クレイがランプに触り、食事が終わった事を知らせる。
程なくして、ティーをワゴンに乗せリラが戻って来た。
「お嬢様、お時間を頂きありがとうございます。お茶をお持ちしました」
「リラ」
リラを見てランゼーヌはホッとする。
「では、失礼します」
「クレイ殿、交代しましょう」
「あぁ、わかった。後を頼む」
今度は、リラと一緒に来たパレルモとクレイが交代し、クレイが出て行った。
「あ、そう言えば交代するのでしたね。お食事はどうでした?」
「それはもう豪勢だったわ。でもやっぱり一人だと寂しいわ……」
「そう言うと思って、じゃ~ん持って来ちゃいました」
ティーカップをリラは掲げる。
「もしかしてそれは……」
「私達の分です」
「では、一緒に飲みましょう!」
ランゼーヌは、嬉しそうに言った。
リラは、ランゼーヌにティーを入れティーカップを彼女の前に置いた後、自分とパレルモの分もティーを入れる。
「あの、何をなさっているのですか? 毒味ならちゃんとスプーンを持参しております」
「あ、そうだったわね。毒味ね。どうぞ」
ランゼーヌが、忘れてそのまま口にする所だったと、パレルモを促す。
「失礼します。……お飲みになって結構です」
「では、パレルモ様もリラの隣に座ってどうぞ」
「………」
リラは、当然とばかりに言われる前からランゼーヌ向かい側のソファーに腰を下ろしていた。
じーっと二人は早くとパレルモを見ている。彼は、二人の視線に耐えきれずに「失礼します」とリラの隣に座った。
「では、頂きましょう」
こくんとランゼーヌはティーを一口飲んだ。
「あぁ、やっぱり一人より皆でよ。ね」
「はい。お嬢様」
「………」
パレルモは、何も言わずにティーを飲んでいた。
15歳で聖女の儀を受けただけあって、変わった令嬢なのだとなぜか納得するのだった。
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