第13話 騎士と令嬢4

 とんとんとん。

 ドアがノックされ声が掛かる。


 「順番が参りました。扉を開けますが宜しいでしょうか」

 「はい。どうぞ」


 ランゼーヌが返事を返すと、クレイが扉を開けた。


 「お待たせしました。儀式の間にご案内します」

 「は、はい」


 緊張気味にランゼーヌは、返事を返す。

 クレイの後に二人がついて行くと、奥の扉の前に来た。


 「失礼します」


 クレイは、そう一言声を掛けるとドアを開ける。

 中には、三人の司祭が部屋の真ん中で立っていた。


 「ランゼーヌ嬢、奥へどうぞ。おつきの方は、私と一緒に壁側でお待ち頂きます」


 クレイに促され頷いたランゼーヌは、司祭が待つ部屋の中心へと向かう。

 クレイとリラが中に入ると、クレイはドアを閉めた。二人は、ランゼーヌを見守る。


 部屋は円で角がない。周りの壁には、ドアが八つ等間隔にある。その一つのドアから三人は入ってきた。

 そして、天井はステンドグラスになっていて、光が差し込んでいる。

 緊張して進むランゼーヌには、中央の白い物体が気になって仕方がなかった。


 (ワンちゃんに見えるんだけど……)


 中央には、丸いテーブルの様なモノが設置されていて、その上にふわふわと白いモノが浮いている。


 (やっぱりワンちゃんだわ。なぜここに!)


 丸いテーブルの向こう側に司祭が居た。

 ランゼーヌは、その近くに来てワンちゃんを凝視する。


 「よくぞ、参られた。そんなに緊張しなくても大丈夫ですぞ」

 「これから我々が祈りを捧げます。その間、そこにあるテーブルの上の線を右手の人差し指でなぞって下さい。それだけで宜しいです」

 「あ、はい」

 『待ちくたびれた~。本当にもう面倒な事を人間はするもんだ』


 なぜか、ワンちゃんは文句を言っていた。


 「では、どうぞ」


 司祭の一人がそう言うと、二人の司祭が祈りを捧げ始める。

 ランゼーヌは、恐る恐る右手をテーブルに出した。


 (このままなぞっていいの?)


 ランゼーヌは、ドキドキしながら司祭に言われた通り、右手人差し指でテーブルに書かれた線をなぞる。

 それに楽しそうにクルクルと踊るようにワンちゃんがついて回り、ランゼーヌも楽しくなって微笑んだ。

 最後まで線をなぞると、線が光りテーブルの縁も光った!


 「きゃ、何?」

 「なんと!!」


 驚いたランゼーヌは、小さく悲鳴を上げクレイに振り向くと、彼は驚いた顔つきで凝視している。

 もしかして……何かやらかした?


 「あなた様は、せい……うん?」

 「何だこれは?」

 『何だとは何だ。俺っちは精霊のワンだ』

 「え? ワンちゃんが皆に見えてるの?」

 『あぁ、見せている。ピュラーア様の指示で』

 「「………」」


 ごほん。

 司祭がワザとらしく咳をする。


 「話しをする精霊など会った事がありません」

 「いやその前に、この姿は……」


 司祭達が、ワンちゃんを怪しんで見ていた。


 (そっか。七色の蝶の姿じゃないから)


 『仕方がない。これなら信用するか?』


 ワンちゃんが、七色の蝶の姿に戻った。

 司祭達が、おぉと声を上げる。


 『ランゼを聖女として、人間で言う祈りをしてほしいと伝えに来た』


 ワンちゃんが、犬の姿になり司祭に告げた。


 『場所は、すぐそこだ』


 ワンちゃんが右腕を伸ばすと、司祭達が振り向く。


 「ま、まさか、呪いの箱庭!?」


 司祭達が、顔を見わせた。


 「の、呪い?」

 『人間が勝手にそう呼んでいるだけで、別に呪われてはいない』

 「勝手にだと。本当に精霊なのか?」

 「どちらにしても、騎士の成り手がいないだろうな」

 『別に俺っちがいるから騎士などいらない』

 「規則だから必要だ」

 「いやその前に、枢機卿にご報告を……」


 (なんか混乱しているわ。って。私は聖女に選ばれた事になるのかしら?)


 「あの、失礼します」


 何だと皆が振り向くと、クレイがランゼーヌの隣に来ていた。


 「差し出がましいとは思いますが、精霊の騎士の成り手がいないのなら、私がなります」

 「「え!?」」


 司祭もランゼーヌもクレイの申し出に驚いた。司祭達は、顔を見合わせる。


 「とにかく、一旦控室へ戻って頂いてよろしいか。我々は、枢機卿にお伺いをしてくるので」

 「わかりました。控室にてお待ちしております。ランゼーヌ嬢、一度戻りましょう」

 「え? あ、はい……」

 『よし、戻ろう』

 「「!?」」


 ワンちゃんが、ランゼーヌについて行こうとすると司祭達が驚いた。


 「どこに行った?」

 『見えるままだった』


 司祭達が、きょろきょろと辺りを見渡している。


 (見えなくなったのね……)


 「さあ、行きましょう」


 クレイが促すので、騒ぐ司祭を残し儀式の間から三人は出た。


 「あ、あれが精霊ですか? 遠くからでしたのでよく見えなかったのですが、まるで七色の蝶のようでした。でもあの白いお姿はいったいなんだったのでしょうか。司祭様も驚いておられましたし」


 通路を歩きながらリラが興奮して言う。


 「あははは。そ、そうね」

 「どうぞ、お入り下さい」


 クレイが、控室のドアを開けたので二人が入室すると、クレイも中に入りドアを閉めた。

 外で待たないんだと二人が思っていると――


 「先に、要件を聞いておきます」

 「え? 要件ってなんでしょうか」

 「儀式が終わったら相談があると言っておりましたので。あの様子だと、聖女として活動する事になるかもしれませんので」

 「………」


 リラとランゼーヌは、顔を見合わせた。そう言えば、そう言ったんだったと。

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