第12話 騎士と令嬢3

 「ふう。ご馳走様」

 「どうなされました? お元気がないようですが……」


 リラは、昨日はモリモリと食べていたのに、朝食は半分も残しているランゼーヌを心配する。


 「そんな事ないわ」


 (はぁ。ワンちゃんが戻ってきていない。迷子なのかしら? どうしたら……)


 結局朝目覚めても、ワンちゃんは戻って来ていなかった。不安で食べ物が喉を通らない。


 とんとんとん。

 ドアがノックする音に二人は振り向く。


 「パラキードです」

 「あ、クレイ様ですね」


 リラが立ち上がり、ドアを開けた。


 「おはようございます。朝早くに申し訳ありません」

 「「おはようございます」」


 軽くお辞儀をしてクレイは顔を上げたが、なぜか目が泳いでいる。


 「どうかなさいましたか?」

 「いいえ」


 リラが聞くと、何ともないとクレイは軽く首を横に振った。


 「精霊の儀ですが、今日開いていると言う事で、今日行う事が決定しました」

 「え? 今日ですか?」

 「はい。昨日お伝えしに来たのですが、寝ているご様子でお返事がなかったものですから……二時間後に迎えに参りますので、ご用意お願いします。と言っても特に必要なモノはございません。では、失礼します」

 「はい。ご苦労様です」


 クレイは、お辞儀をしてドアを閉めた。


 (うーん。やっぱり私に気があるようには思えないのだけど……)


 「では、ドレスに着替えておきましょうか」

 「そうね。もしかしたら早く来るかもしれないものね」


 ワンピースには着替えていたが、精霊の儀の為に持ってきた婚約の顔合わせに着たドレスをリラが手に取る。


 「………」


 (なんかそのドレスを見ると、婚約の顔合わせの時の事を思い出すわ)


 「どうかなさいました?」

 「婚約破談になった事を思い出して……」

 「破談……」


 リラは、はぁっとため息をついてしまう。せめてもう一着あればと。


 「リラが思っているような思いは、クレイ様はお持ちではないと思うわ」

 「そうでしょうか」

 「さっきだって、仕事として伝えに来ただけですし。もしかしたら早く終わらせて、縁を切りたいのかもしれないわ」

 「え? 逆にですか?」


 そうだとランゼーヌは、頷く。

 リラは、しょんぼりとしてしまう。


 「もうリラが、落ち込んでどうするのよ。私は別に失恋をしたわけではないのよ」

 「ですが、今回がダメだった場合、旦那様がまた違う方を探しそうで」

 「……そうね。十分ありえるわ。戻ったら爵位を継ぐと言うわ!」

 「え!」


 リラが驚いた顔をランゼーヌに向けた。


 (爵位が宙ぶらりんなのがいけないのよ。本当は、赤字だし継ぎたくない。継いだとしても、今までと何もかわらないだろうし。ただ嫁に出される事はなくなるわ)


 「素直に、頷いてくれるでしょうか」

 「ここで手続きをしていけばいいのでは?」

 「それ可能でしょうか?」

 「わからないけど……クレイ様にご相談しましょう。きっと相談に乗ってくれるわ」

 「そうですね……」

 「もうリラったらまだクレイ様が私をって思っているの?」

 「いえ。私は、ランゼーヌ様についていきます」


 二人は、笑いあう。

 それから二人は、お茶を飲みながらクレイを待った。


 時間通りにクレイは二人を迎えに来た。

 宿の前に停まっていたいた馬車は、昨日乗って来たパラキード子爵家の馬車ではなく、こじんまりとしているが、王家の紋章が入った馬車だ。


 「うわぁ。お嬢様、王家の紋が入っています!」

 「こちらは、精霊の儀に向かう専用の馬車になります。乗り込むのがお二人なので、お二人用の小さい馬車ですがご了承下さい」

 「え? クレイ様はいかないのですか?」

 「私は、御者として乗り込みます」

 「そうなのですね」


 見れば、御者はいなかった。

 二人が乗り込むと、クレイが馬車を走らせる。静かに動き出し、真っ直ぐと王宮へと向かう。

 精霊の儀専用の門から馬車が王宮内と入った。


 「わぁ、緑のアーチね」

 「アーチの棒に蔦を巻き付けたのですね」


 二人は、緑のトンネルになっている蔦を見上げる。


 (素敵だわ。それにやっぱり精霊が多い)


 ランゼーヌの瞳には、アーチの周りを飛ぶ、七色の蝶が見え鮮やかだ。

 緑のトンネルを抜けると、白い壁の平屋の大きな建物が見えた。その建物は、四角ではなく円の形をした建物だった。

 建物は、等間隔で通路だと思われる場所があり、そこには兵士が一人必ず立っている。

 暫くして馬車が停まった。

 クレイが扉を開けると、建物の中へと続く通路が見える。


 「お待たせいたしました。こちらの通路から中へ入ります」

 「はい……」


 (何だか緊張してきたわ)


 降りた二人は、立っている兵士に軽くお辞儀をしてクレイについて行く。

 二人の歩みに合わせ、ゆっくりとクレイは進んだ。

 通路は、二人が並んで歩けるほどの広さがあり、ずっと奥に扉が見える。そこへ行くのだと二人は思っていた。


 「こちらが、控室となります」


 途中で歩みを止めたクレイが、左側にあったドアに手を掛ける。


 「え? あ、はい」


 中は、窓がない部屋だ。


 「奥の扉には、ベッドがありますので、お疲れでしたら仮眠をとられてもかまいません。私は、この扉の外で待機しておりますので、何かありましたら扉を開けずにノックしてお呼び下さい」

 「あ、はい」

 「中にありますティーやお菓子は、ご自由に召し上がり下さい」

 「ありがとうございます。あの、どれくらい待ちますか?」

 「一人30分ほどかかりますので、一時間ほどでしょう。他にご質問はありますか?」

 「……あの! あとで相談に乗ってほしい事があります。精霊の儀の後も会えますでしょうか?」

 「はい。また宿へ戻り、聖女にならなかった場合は、一泊して明日お帰りになる予定ですので、その間なら」

 「ありがとうございます。助かります」

 「では」


 パタンと、クレイはドアをしめた。


 (やっぱり義務ね。私には、興味はないわ)


 何となく寂しい気もするが、元から破談になった相手なのだから期待する方がおかしいのだ。

 リラが、ティーの用意をしてくれて、それを飲んで待つのだった。

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