第8話 予想外の展開4
四人の間に、沈黙が流れる。
アーブリーは、口元を扇子で隠しているが、目がつり上がっていて、不機嫌さがうかがえた。
ふとランゼーヌが隣からの視線で振り向くと、睨みつけるアルドと目が合う。
(ひ~。凄く怒ってる!)
ランゼーヌの心臓が、バクバクとなり始めた。ぷるぷると震えだす。
『大丈夫だ。俺っちがいる。守ってやるから心配ない』
ランゼーヌは、俯きつつ、それに頷いた。
「ふう。仕方がないわね。あなた……」
ため息をしつつジアンナが、昔話に話を咲かせているケンドールに話しかけようと横に振り向いた。
「娘を嫁にもらってもらえて一安心だ」
「うん? 息子を婿に取るのだろう?」
「何を言う。私には息子がいる! 普通、嫁に取るだろう」
「君の所は、彼女が後継ぎなのだろう? だったら婿にとるだろうに」
「はぁ? そんな内情そちらには関係ないだろう? それに彼は嫡男なはず。なぜに婿によこす気なのだ」
「確かに長男だが、後を継ぐのは次男のドワンだ」
『流石、この男の友だ』
早口になり声も大きくなっていく二人の内容に、ジアンナが唖然として二人を見る。
ワンちゃんは、うんうんと感心していた。
ランゼーヌに至っては、内容に驚くと言うよりわかっていなかったのねと、落胆したところだ。
(お父さまが私を嫁にってわかるけど、普通に考えて嫡男を婿にって変よね? クレイ様のお宅も訳ありだったのね)
そう思いランゼーヌがクレイを見れば、無表情のまま二人の言い合いを見つめている。
表情からは、感情を読み取れない。
「あ、あなた、何を言って……」
睨み合う二人に、ハッと我に返ったジアンナが声を掛けようとした時だった。
「「この婚約は破談だ!」」
なぜそこまで息がぴったりなのだと思うほど、立ち上がりながら声を揃え二人は叫んだ。
ばん!!
「いい加減にしてください!」
ジアンナも、テーブルを叩きながら勢いよく立ち上がる。
睨み合っていた二人は、驚いてジアンナを見つめた。
「破談も何も、あなた達はここで婚約の話など一切なさっておられないでしょう?」
「あ、ジアンナ。えーと、すまない」
「………」
モンドは、何と返していいかわからず黙り込む。
「そんな事よりも……」
(え? そんな事?)
ジアンナ自身が言っていた様に、婚約の内容など喧嘩の原因になった婿か嫁かしか話に上がっていない。確かにこんな婚約ならしないほうがいいだろうが、彼女が一番常識的な人だと思っていたので言い回しに、ランゼーヌは驚く。
「ランゼーヌ嬢が精霊の儀を行っておられないようなのです」
そう言いつつジアンナがランゼーヌを見れば、自然と皆が彼女を見た。
注目の的になったランゼーヌは、少し頬を染め俯く。
「モンド、彼女に儀式を受けさせなかったのか?」
「え? あぁ。い、忙しくて、つ、妻に任せていたが、その、彼女は他国から来たので、儀式の事を知らなかったみたいなんだ……」
あたふたとモンドは、言い訳をする。
「それにしたって、儀式の日取りの確認ぐらいしなかったのか?」
「め、面目ない……」
ヒア汗をかきつつ、モンドは俯いた。
「今更責めても仕方がありませんわ。早急に精霊の儀を行って頂いた方が宜しいかと」
「そ、そうだな」
ネビューラ家の事なのに、パラキード家の二人がそう言い合う。
「ご心配ありがとうございます。後はこちらでやりますわ」
「いえ。クレイ、お前が手配しろ。ついでに帰る時に連れて行ってやれ」
「わかりました」
「「え!」」
アーブリーとランゼーヌの驚きの声が重なる。
まさか勝手に手配するとは、二人は思わなかった。
「そ、そこまでしていただかなくとも……」
「何かわまぬ。息子が帰る時に一緒に行くだけだ。息子にやらせた方が、事がスムーズに行くだろう。ただ一人はついて行ってほしい」
アーブリーが、焦って言うもケンドールがそう返すので、彼女は頬をひきつらせた。それは扇子に隠れて見えないが。
ケンドール達は、このままだと絶対に受けさせないだろうと思った為に打った手だ。なぜ受けさせようとしないかは、彼らにはさっぱりわからなかったが。
「あ、ありがとうございます。何から何まですみません」
ランゼーヌは、立ち上がり二人に頭を下げた。
念願の精霊の儀を行う事が出来るのだ。下を向いているランゼーヌの顔がほころぶ。
「明日、お迎えに上がります。侍女でもいいので、誰か一人ついてきてもらってください」
クレイも立ち上がり、顔を上げたランゼーヌにそう言った。
「はい。では、侍女を連れて行きます」
ランゼーヌは、そう返す。
絶対に、アーブリーは一緒に来ないだろう。だからと言って、父親であるモンドは仕事があるのでついて来られない。
「では、失礼します」
お辞儀をしてクレイは、この場を離れ去って行く。
『で、婚約の話はどうなったんだ?』
クレイも去った事だしお開きとなったが、ワンちゃんが言う様にどうなったのかなど、聞ける雰囲気ではないので、ランゼーヌも首を傾げるしかない。
(まあ、破談になったんだと思うけど、それにしては対応が優しい)
友人の子の事だとは言え、破談だと喧嘩した直後だと言うのに、まるで何もなかったかのような対応に感心とお礼の気持ちしかないのだった。
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