第7話 予想外の展開3

 「もう仕方がない人達ね。二人は放っておいて、私達でお話をしましょうか」


 懐かしさで盛り上がるモンドとケンドールを横目にジアンナがそう言って、ランゼーヌを見た。


 「ランゼーヌ嬢は、何か趣味はございまして?」

 「え! あ、はい。本を読んで……いえ、えーと、ど、読書です」


 突然、問いかけられたランゼーヌは、しどろもどろになりながらも答えた。

 趣味というか、ほぼ毎日読書ぐらいしかする事がないというのが正しい。


 「クレイ、あなたは読書をするの?」


 母親のジアンナに話しかけられたクレイは、彼女に振り向き驚いた様に目を一瞬大きくしたが、すぐに無表情に戻る。


 「いえ、とくには」


 と一言。

 会話が続かない。


 『こいつ無口だな』


 ジアンナは、その態度に苦笑いした。


 「ごめんなさいね。口下手で」

 「いえ……」


 ランゼーヌも似たようなものだ。何を話したらいいかなどわからないから黙るしかない。


 「これでも王宮勤めなのよ」

 「……精霊の儀の護衛だ。王宮勤めとは言わないだろう」

 「あら、王宮で行っているでしょう?」

 「場所がそこなだけであって、王宮勤めとは言わない」

 「うふふ……」

 「………」


 なぜかジアンナが、にこにことしてクレイを見つめていた。それにも無表情なクレイ。


 (なぜかわからないけど、夫人が楽しそう。クレイ様は精霊の儀の護衛をしているのね!)


 「すごいわ! ねえ、精霊って見た事がある?」


 ランゼーヌは、キラキラした瞳でクレイに話しかけた。


 「一度だけ」

 「それってやっぱり、虹色の蝶なの?」

 「はい……」


 ランゼーヌは、精霊が見えている。だが、他の人達が同じように見えているか気になっていた。

 精霊の儀について書かれた本には、虹色の蝶の様な姿と書かれてはあったので、そうだとは思ったが確かめてみたかったのだ。


 「そっかぁ。儀式って魔法陣を描くのよね?」

 「あぁ……」

 「それって家でやっても呼び出せるのかしら? やっぱり司祭のお祈りがないとダメかしら?」

 「………」


 ランゼーヌがそう言うと、クレイが驚いた顔で目を瞬かせ彼女をジッと見つめる。


 「ランゼーヌ!」


 強い口調でアルドがランゼーヌの名を呼び睨みつけた。

 ランゼーヌは、ビクッとして俯く。


 「ランゼーヌが、変な事を言って申し訳ありません」


 アーブリーが、ワザとらしくやれやれという仕草で言った。


 ランゼーヌは、精霊の儀を受けていなかったので、気になったのだ。

 10歳になったら行うと本で読んで楽しみにしていた。だが、11歳になっても声が掛からないのでモンドに聞くと、困り顔で体調が悪そうだったので断ったと返って来たのだ。


 モンドの話によると、ちょうどランゼーヌが風邪をこじらせて伏せっている時に、頼りが来たが行けそうもないので断ったの事だ。

 直感的にランゼーヌは嘘だと思った。

 つまり精霊の儀に行かせるつもりないのだと。たぶん、アーブリーが反対したのだろう。そう推測し、諦めたのだ。本を読んで雰囲気を味わおうと、何度も精霊の儀を読んで過ごした。

 直接、精霊の儀に関わった人からの話が聞けると思い、つい嬉しくなって変な事を聞いてしまったのだ。


 「ご、ごめんなさい」


 しゅんとして、ランゼーヌが謝る。


 『別に儀式なんてしなくても俺っちがいるだろうが』

 「そうだけど……」


 ついぼそっとランゼーヌが呟く。


 「精霊に会ってみたかったのですか?」

 「え?」


 クレイの質問に驚いてランゼーヌは顔を上げた。

 先程から受け身だったクレイから話しかけられたからだ。


 「いえ、そうではなく、儀式と言うものを体験してみたくて……」

 「体験? それって、儀式を受けていないという事ですか?」


 驚いた様子のクレイが、更に質問をする。


 「えーと……」

 「アーブリー夫人。ランゼーヌ嬢に精霊の儀を受けさせていないのですか?」


 ジアンナが、険しい顔つきでアーブリーに聞くので、アーブリーは扇子を広げ口元を隠しながら頷いた。


 「えぇ。ちょうど体調を崩していたものですからお断りしました」


 アーブリーの答えに、ジアンナとクレイが顔を見合わせる。

 その仕草にアーブリーは、眉間に皺を寄せた。


 「何か問題でもありましたでしょうか? 私、実は、ダタランダから参りましたので、精霊の儀に疎いもので……」


 そう言い訳をする。


 「そうですか。リダージリ国では義務ですわ。早急に行った方が宜しいかと」

 「ですが、もうすでに五年も前の事。15歳になりますし……」

 「年齢は関係ありません。10歳以上であれば受けられます。それに、ほぼ毎日・・行われていますよ」


 クレイが、無表情のままアーブリーにそう返すと、彼女は一瞬ランゼーヌを睨んだ。

 余計な事を言うから面倒な事になったと。


 「どうせ聖女になどなれないのですから、もうかなり過ぎ……」

 「そんな事わかりませんよ。私は元聖女です」


 面倒な事は断りたいとアーブリーが食い下がっていると、ジアンナが驚く事言って来た。

 アーブリーもランゼーヌもジアンナを見つめる。


 (そっか。だから精霊が彼女の周りにもいるのね)


 ランゼーヌは、ジアンナが言っている事が本当だと確信した。

 彼女の周りには、ランゼーヌほどではないが、精霊が近づいて飛び回っている。ただ、ジアンナ自身は、それに気付いていない様子だ。

 聖女になったら精霊が見える様になるのだと思っていたランゼーヌは、そこだけ驚くのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る