第6話 予想外の展開2

 何事も上手く行きそうな程の晴天。

 天気がいいと気分も上がる。普段のランゼーヌなら。

 婚約相手のパラキード子爵家へ家族で訪問する事になり、憂鬱な気分だった。滅多に乗らない、いや記憶では初めての馬車に乗ったというのに。


 「ランゼーヌ。お前は、絶対に余計な事を言うなよ」


 隣に座るアルドが睨みつつボソッと言った。それに緊張気味にこくんとランゼーヌは頷く。

 ランゼーヌとアルドは、ほとんど会話をした事がない。彼は、言葉を発せず睨みを利かせて来るのだ。

 アルドが、ジロリとランゼーヌを見ていた瞳を外に向けると、ランゼーヌはホッとして息を吐く。


 (生きた心地がしないわ)


 初めて会った時は、ランゼーヌと同じぐらいの背丈だったのに、今やランゼーヌの頭一つ分ほど背が高い。

 いつも見下ろしつつ睨まれていた。

 暴力を振るうわけでも罵ってくるわけでもないが、ランゼーヌはあの鋭い瞳に恐怖を覚えていたのだ。


 パラキード子爵家は、ネビューラ家よりもちろん屋敷が大きいが、大きな庭があった。

 天気がいいので、そこにあるテラスで顔合わせをすると案内される。


 (わぁ、色々凄いわ)


 目を輝かせて、ランゼーヌが辺りを見渡す。

 青々とした木々に、かわいらしいお花たち。そして、虹色に輝く精霊


 (やっぱり木々があると精霊がいっぱいいるのね)


 そう思って、ほっこりしながら見渡しアルドと目が合う。彼は、ギロリとランゼーヌを睨みつけていた。

 口パクで、「やめろ」と言って来る。


 『本当に嫌な奴』


 そう言って、ワンちゃんがアルドの頭を蹴ると、なんだとアルドが辺りを見渡した。


 「おぉ、モンド! 待っていた」


 使用人に案内されて奥に入ると、テラスから声が聞こえる。

 モンドと同じぐらいの年齢の男が笑顔で出迎えてくれた。

 パラキード子爵だ。その横には夫人と子供二人が居て、立ち上がる。


 「いやぁ。本当に久しぶりだ」


 そう言って、モンドとパラキード子爵は握手を交わす。


 「あなた、まずは……」


 このまま、世間話をしそうな二人にパラキード子爵夫人が促す。


 「おっと、そうだった。まずは自己紹介を。私は、ケンドール・パラキード。隣は妻のジアンナ、次男のドワン、長男のクレイだ。今日はよろしくお願いする」


 紹介されると、軽く三人はお辞儀をした。

 ケンドールは、アイボリーブラックの髪を刈上げ、弾む声とは裏腹に強面の顔だ。その顔をにんまりとさせている。紺色の瞳が細められ、目尻に皺がよると少しは優し気な印象になった。

 その妻ジアンナは、ほっそりとして、青色の髪をアップにしているが若く見える。

 どうやって二人は出会ったのかと、馴れ初めを聞きたいとランゼーヌは思った。


 「僕は、10歳になりました」


 元気よく挨拶するクレイの弟のドワンは、母親のジアンナと同じ青い瞳がクリっとしていて、ランゼーヌは本当にケンドールの子かと思う。紺色の髪は、刈上げに近いぐらいに短く、髪形だけなら父親に似ている。

 そして、今日の主役のクレイは、無表情の顔で立っていた。ライトグリーンの瞳は、ジッとランゼーヌを見つめている。


 (私、何か変かな?)


 ランゼーヌと目が合うと、サッと視線を逸らした。

 クレイは、ケンドールやドワンと違って、紫黒色の髪は刈上げていない。

 髪形のせいもあるのか、彼は父親のケンドールとあまり似ていない印象だ。


 「えぇ、ごほん。俺……いえ私はモンド・ネビューラ。この愛してやまない妻はアーブリー。そして賢い息子のアルド。それに娘のランゼーヌだ」

 「「………」」

 『おい、どうしてランゼだけ一言がないんだよ! それに愛してやまないってなんだ。そんなの誰も聞いてない』


 ワンちゃんが、ぶーぶーと文句を言う。

 ちょっとモンドのあいさつで白けたようだが、皆席につく。


 (なんか、私の周りに精霊達が集まって来て、凄く気になるんだけど)


 家にいる時は、ワンちゃんが傍にいるだけだった。

 天気がいい日は、こっそり庭に出てお散歩をすれば、精霊がよって来るが今ほどではない。いつもの倍は、ランゼーヌの周りを飛び交っていた。


 ふとランゼーヌが正面を見るとまた、クレイと目が合う。ランゼーヌがにこりとするが、クレイは無表情のまま視線を外した。


 (私に好意を持ったのか、それとも変で気になるのか、どっち!?)


 ランゼーヌは、家族や使用人以外と会った事がなく、今日は誕生日プレゼントの淡いピンクのドレスに、リラが頑張ってまとめてくれた髪型だ。いつもよりおしゃれをしてるが、これが変なのかそうでないのかはわからなかった。


 「いや~。久しぶりに話をしたいと思っていた」


 モンドがそう嬉しそうに言うと、ケンドールもそうですなぁと相槌を打ち、そのまま昔話に花を咲かせ始める。

 二人が、話し始めて少し経っても、婚約の話にならなかった。

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