第4話 諦め令嬢の誕生4

 ティーゼは、ネビューラ家の一人娘だった。

 そこで婿を取る事になるが、男爵家につぐ男子などそうそういない。

 探していたところ、ビノーレ子爵家から声がかかった。三男のモンドはどうかと。いわゆる政略結婚だ。

 モンドは、商売に携わった事がなく、かなり苦労した。

 しかも当主は、ティーゼだ。その補佐をモンドは行うのだった。


 「と、言うわけでして、モンド様は今は当主代理なのです」


 バラーグが、二人の馴れ初めの話をした。


 「そして、爵位とはその血を引く者が引き継ぎます。ですので、アルド様がモンド様の嫡男であろうと、ランゼーヌ様がいる限り、ランゼーヌ様がティーゼ様同様に婿を取り引き継ぐのです」

 「そうなのね」


 嬉しそうにランゼーヌは微笑んだ。

 別に当主になりたいと思っていたわけではないが、母親の家を守れるのだと嬉しく思った。


 「ただ、残念ながら私の力が及ばず、家庭教師の件はアルド様が先につく事になりました。本来ならランゼーヌ様を先につけるのが筋だとは思うのですが」


 すまなそうにバラーグが言う。

 バラーグは、モンドにランゼーヌを先にと言う事も出来た。だがそれをした事によって、アーブリーの嫌がらせがあっては困ると思い、今回は引いたのだ。

 情けない事に、モンドはアーブリーの言いなりのようなだとバラーグは感じていた。


 「ううん。ありがとう。バラーグ」

 「いいえ。こんな事しか出来なくて不甲斐ないです。これは奥様が、経営の為に読んでおられた本でございます。まだ難しいかと思いますが、この中には、外国語の勉強の本もございます」

 「まあ、ありがとう!」

 「まだ早いと思い、しまってありました」


 嬉しそうに、箱の中を覗き込むランゼーヌ。


 (お母さまの形見)


 ランゼーヌは、一番上の本を手にして、ギュッと抱きしめた。


 「大切にするわ。そして、いっぱい勉強をする!」

 「はい。お嬢様ならおできになるでしょう」

 「では、本棚に並べておきますね」


 リラが、箱の中の本を本棚に並べる。


 それから毎日ランゼーヌは、ティーゼの形見である本と睨めっこした。

 そして、皮肉にもアーブリーが言っていたように、生の発音を聞ける事は勉強になったのだ。

 しかもワンちゃんが訳してくれるので答え合わせが出来て、間違ったところは部屋に戻って勉強し直した。


 食事の時にダタランダ国で話すのが普通になり、アーブリーはランゼーヌがあぶれていると思っていた。いつも大人しくしているからだ。

 しかしランゼーヌは、この時も勉強の時間と思い、会話を聞いていたのだった。


 そしてランゼーヌは、一年もしない内にダタランダ語をマスターした。


 「お父さま、私、ダタランダ語を話せるようになりました!」


 満を持してそうランゼーヌは、モンドにダタランダ語で話しかける。

 話せるようになっていたのかと、モンドは驚きの顔をランゼーヌに向けた。


 「私にも家庭教師をつけてください」

 「……あぁ。そうだな。探しておくからそれまでは、今まで通り一人で勉強していておくれ」

 「はい。ですが別に同じ家庭教師の方でもよろしいですよ」


 アルドにつけている家庭教師は、それなりの者で授業料が高かった。それを二人となるととてもでないが無理だ。


 「いや、女子と男子では違う」


 そう言ってモンドは誤魔化した。


 「わかりました」


 ランゼーヌは、家庭教師はいつかいつかと待ちわびたが、一か月経っても音沙汰がない。

 だが、モンドをせかすのもと思い、こっそりとバラーグ聞いた。


 「確認しておきますね」

 「はい」


 嬉しそうに微笑むランゼーヌを見てバラーグは、何とかせねばと思う。


 「旦那様。アルド様の家庭教師を解雇して、新しい者を雇い金額を抑えてみてはどうでしょうか。そうすれば、ランゼーヌ様にも家庭教師をつけられると思いますが。いかがですか」

 「今更そんな事ができるか。それに、彼はアーブリーが選んだのだぞ。あとその……来年も赤字になるかもしれん」


 それを聞いて、はぁっとバラーグはため息を漏らす。

 アーブリー達にお金を掛け過ぎだと、何度諭してもアーブリーにゾッコンのモンドは聞く耳を持たなかったからだ。


 「それこそ家庭教師を解雇すれば済む話ではございませんか」

 「うるさい。策は考えてある!」

 「わかりました。お任せします」


 しかし任せたのをバラーグは後悔する。モンドは、アーブリーが連れて来た使用人を残し、長年勤めた使用人達を解雇したのだ。

 アーブリーは、子爵令嬢だった。そこから連れて来た使用人の方が若干高かった。なので、元からいた使用人達の賃金を上げたのだ。もちろん、元からいたのだから連れて来た使用人より賃金が高くなるように。


 バラーグは、がっくしと肩を落とす。

 結局、ランゼーヌには家庭教師がつかなかった。いやお金がなくてつけられなかったのだ。

 そうとも言えずモンドが、ダメだとは言わないがまだ見つからないと言い続けた為ランゼーヌは、家庭教師をあきらめた。

 ランゼーヌは、それからというもの一応聞くが聞き入れてもらえない場合は、すぐに諦めるようになってしまう。

 バラーグ達が不憫に思うも、お金がないのでどうしようもなかった。

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