第8話 疑い深い疑井さんは、なかなか入れない。

 疑い深い疑井さんは、異世界転生した。


 自分と同じように拉致されてきたであろう少女が目の前で、いかがわしい家に連れ込まれてしまったのを見てしまった。


 だがしかし、何事も疑い、リスク最小限を信条とする疑井さんにとっては、

 わざわざ飛んで火にいる夏の虫的な行動はどうしてもする気になれない。


「……」


 改めて建物の外観を見つめる。


 読めない字の書かれた看板があり、外観は古びた平屋だ。

 何やら騒がしい声が時折聞こえてくる。

 特に匂いはない。


 これでうまそうな匂いでもすれば、安心もできるのだが、いかんせん情報不足だ。


「放っておくか。だが、未成年の子供を見捨てる。この行動は、人としてどうか――」


 疑井さんがぶつぶつと呟いていた、その時。

 勢いよく扉が開く。


「いい加減入ってきなさいよ! 普通入ってくるでしょ! ふつー」


 痺れを切らした自称女神が扉から飛び出してきた。

 立派な胸がぽいんぽいんしている。


 疑井さんは、先ほどまでの葛藤は消え失せた。


「やはり罠だったか」


 くるりと踵を返そうとするが、その奥に少女の姿が見えたので、女神を押しのけて中に入る。


 今がチャンスだ。


「ちょ、ちょっと! 何よ、あれだけ嫌がってたのになんで?」


 建物の中を手早く観察する。


 カウンターのようなものがあり、中にはウエイトレスらしき女が一人、奥に屈強な男が一人、それ以外のスペースも案外広く、武装した男が数名談笑している。男たちも鋲のついた革の鎧のようなものを身に着けており、腰にはナイフが取り付けられている。


 そして、おどおどした様子の少女が突然入ってきたこちらを見ている。


 少女の姿を眺める。

 似合わない大きすぎる金属製の兜をかぶり、背中には剣を背負っている。

 そしてマントのような赤い布をまとっていた。

 

「コスプレ?」


 疑井さんは、理解できず、眉根を寄せる。


 騙されるな。


 心の声が聞こえてくる。

 害のないコスプレ大会に見せた宗教施設かもしれん。


 隣に視線を移すと、自称女神にそっくりだが、少々印象の違う女がいた。

 自称女神とは違い、多少露出は少なく、体の凹凸も少なめだ。


「アレより、マシだが同じムジナ、だろうな」

「なんか失礼なこと言わなかった?」


 後ろから高い声が聞こえるが、無視する。


「窓はあるが、逃げるなら扉だけだな」


 そう呟くと、少女に向かっていう。


「逃げるぞ!」

「え?」

「説明はあとだ」


 イマイチ理解できていない様子の少女の手を掴むと、一目散に走りだす。


 先ほど入ってきた扉にあっさりたどり着くと、そのまま屋外に。


 一瞬後ろをみたが、誰も反応できておらず、ぽかんとしていた。


「間抜けなことだ。自分たちの優位性を過信したか」


 疑井さんは、鼻で笑うと、改めて少女の手を握り直し、駆けだした。


 当てはない。

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