第7話 疑い深い疑井さんは、二の足を踏む
疑い深い疑井さんは、異世界転生した。
「ふふん、追いかけてきてる。きてる」
ほくそ笑む。
女神はやり方を変えた。
やはり恋愛と同じで人間、追えば逃げ、逃げれば追いたくなるもの。
それに、あの男、異世界を認めないがあまり、チート能力もなく、当然あの魔力も生かせていない。
この世界では生きるのが困難な状況というわけだ。
つまり、私がいないと困る。ということだ。
やがてとある場所に到着する。
看板には冒険者ギルドと書かれている。
だが、彼は字が読めない。会話だけはできるように能力を転生時に与えている。
「話が進まないからな」
だが、識字能力は別だ。あれはわざわざ与えていない。
◆
「おーい、そんな怒るなよ」
なぜか突然、食事中に黙り込んだ自称女神は、支払いを終えた後、
黙って立ち上がる。
「わかった、あんたにはもう期待しない」
酷く冷たい目をして、そんなことをいってきたのだ。
いまいち何に怒ってるのかもわからない。
そもそも拉致してきたのは、そちらのほうだ。なぜ犯罪者に逆ギレされないといけないのか。まったく信じられない。
そして、この女、勝手に追いかけてきた感すらある。
だが、ここで見捨てられると食事にも苦労しそうだ。
なんとか日本にも帰らせてもらねばならない。
「ヨーロッパは遠いしな」
エコノミークラスでは、エコノミー症候群になってしまう恐れもある。自慢じゃないが、今までエコノミークラスには乗ったことがない。リスクは常に避けなければならないというのが信条だ。
それはさておき。
不本意だったが、こういう事情もあり、嫌々、自称女神を追いかけているという状況なのだ。
「おーい」
正直走れば追いつくのだが、そこまで努力したくないので、
適当に追いかけている。
声は届くが、手は届かない絶妙な距離というやつだ。
それに、これは罠。という可能性がある。
路地裏に誘い込まれて、麻袋を被せられて、また宗教施設へ拉致されるという可能性もある。
唐突に、自称女神の歩みが止まる。
「ん?」
外見からは何の店?なのかわからないのだが、建物の前だ。なにやら看板もあるのだが、字が読めないのだ。
ヨーロッパってのは、建物の外見似てるんだよな。
頭を掻く。
そして女神は、こちらを振り返ることもなく、中へ入っていった。
「……怪しすぎるな」
当然、疑井さんとしては、軽率に中に入るなどということはしない。
しばらく様子を見るしかないか。
物陰に隠れようとしたがあまり隠れる場所もない。
と。
「こちらです! タナ様」
「は、はい」
そんな声が聞こえた。
振り返ると、そこには自称女神と似たような恰好をした半裸女と、似合っていない武装をした少女が立っていた。
少女は余裕のない様子で、しきりにずれてくるサイズの合っていない兜の位置を直している。
「ここが冒険者ギルドで、どんな伝説の冒険者も最初の第一歩はここからなんですよ! では参りましょう!」
そんなことを言いつつ二人は建物中へ入っていった。
「……」
疑井さんは思った。
俺以外にも、拉致された人がいたとは。
どうする?
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