第7話 疑い深い疑井さんは、二の足を踏む

 疑い深い疑井さんは、異世界転生した。


「ふふん、追いかけてきてる。きてる」


 ほくそ笑む。


 女神はやり方を変えた。

 やはり恋愛と同じで人間、追えば逃げ、逃げれば追いたくなるもの。

 それに、あの男、異世界を認めないがあまり、チート能力もなく、当然あの魔力も生かせていない。


 この世界では生きるのが困難な状況というわけだ。


 つまり、私がいないと困る。ということだ。


 やがてとある場所に到着する。

 看板には冒険者ギルドと書かれている。

 だが、彼は字が読めない。会話だけはできるように能力を転生時に与えている。


「話が進まないからな」

 だが、識字能力は別だ。あれはわざわざ与えていない。



「おーい、そんな怒るなよ」


 なぜか突然、食事中に黙り込んだ自称女神は、支払いを終えた後、

 黙って立ち上がる。


「わかった、あんたにはもう期待しない」


 酷く冷たい目をして、そんなことをいってきたのだ。


 いまいち何に怒ってるのかもわからない。

 そもそも拉致してきたのは、そちらのほうだ。なぜ犯罪者に逆ギレされないといけないのか。まったく信じられない。


 そして、この女、勝手に追いかけてきた感すらある。

 だが、ここで見捨てられると食事にも苦労しそうだ。

 なんとか日本にも帰らせてもらねばならない。


「ヨーロッパは遠いしな」

 エコノミークラスでは、エコノミー症候群になってしまう恐れもある。自慢じゃないが、今までエコノミークラスには乗ったことがない。リスクは常に避けなければならないというのが信条だ。


 それはさておき。

 不本意だったが、こういう事情もあり、嫌々、自称女神を追いかけているという状況なのだ。


「おーい」


 正直走れば追いつくのだが、そこまで努力したくないので、

 適当に追いかけている。


 声は届くが、手は届かない絶妙な距離というやつだ。

 それに、これは罠。という可能性がある。


 路地裏に誘い込まれて、麻袋を被せられて、また宗教施設へ拉致されるという可能性もある。


 唐突に、自称女神の歩みが止まる。


「ん?」


 外見からは何の店?なのかわからないのだが、建物の前だ。なにやら看板もあるのだが、字が読めないのだ。

 ヨーロッパってのは、建物の外見似てるんだよな。

 頭を掻く。


 そして女神は、こちらを振り返ることもなく、中へ入っていった。


「……怪しすぎるな」


 当然、疑井さんとしては、軽率に中に入るなどということはしない。

 しばらく様子を見るしかないか。

 物陰に隠れようとしたがあまり隠れる場所もない。


 と。



「こちらです! タナ様」

「は、はい」


 そんな声が聞こえた。

 振り返ると、そこには自称女神と似たような恰好をした半裸女と、似合っていない武装をした少女が立っていた。


 少女は余裕のない様子で、しきりにずれてくるサイズの合っていない兜の位置を直している。


「ここが冒険者ギルドで、どんな伝説の冒険者も最初の第一歩はここからなんですよ! では参りましょう!」


 そんなことを言いつつ二人は建物中へ入っていった。


「……」


 疑井さんは思った。

 俺以外にも、拉致された人がいたとは。


 どうする?

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