第6話 疑い深い疑井さんは、腹が減っている

 疑い深い疑井さんは、異世界転生した。


「……あれだけ不審がってたのに結構食べるよね」


 半眼で呟く。


 すべての料理、しっかりすべて一口目は、食べさせられた。

 その様子を確認後、この男は食べるのだ。


 女にさきに毒見させるか、普通。


「腹が減っていたからな、誰かさんに拉致されたせいで」

「だから私は関係ないって」


「悪い奴らは、みんなそういうんだよ」

「ぬぬぬぬ!」


 先ほどからずっと言い負けている女神だったが、なんとか彼に異世界を実感させる必要があった。


 そして先ほどその策を思いついたのだ。


 異世界の食事を食べさせよう。プランだ。


 さきほど既にそのメニューは注文済みだ。

 その名も、歩き出すキノコだ。


 あとはそれが届けば、びっくり仰天、さすがのこの石頭も違う世界だと気づけるだろう。


「なんだ、笑ったりなんかして、気持ち悪」

「……あんた本当にどつくわよ」


 この美の化身たる女神をみて、気持ち悪いなどといった男など、今までいなかった。

 本当にどうかしている。

 完全に外れガチャを引いてしまったようだ。


 なんとか怒りをこらえていると、やがてその時が訪れた。


「おまーちどーさまー」


 ウエイトレスがあのメニューを届けてくれた。

 疑井さんは、このメニューをみるやいなや。


「な、なに」


 驚いた声を出した。


 思わずにんまりほくそ笑む女神。


 ついにきた。このときが。奴が理解するのだ。異世界だと。



「うまそうなキノコじゃないか。大好物なんだ」


 と疑井さんは、無造作にキノコにフォークを突き刺し、かぶりついた。


「ああああーっ」


 食べるのが早すぎる。


 キノコは歩く前に、男の胃の中へ消えていった。



 だが。

 そのとき。


「し、しまったあああああああ!」



 疑井さんは、フォーク片手に声を上げた。



「な、なに? 異世界に気づいた?」


 なにか変わった味、触感などがあったのだろうか?


 この男は真顔で言い放った。

「毒見なしで食べてしまった」


「もう、死ね!」


 女神の我慢は限界にきていた。

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