第5話 毒見

 疑い深い疑井さんは、異世界転生した。


 とりあえず自称女神(宗教女は嫌だと泣くので)に飯をおごらせようと店に入っていた。

 銀の蛙亭だったか。


 雰囲気の良い年季の入った酒場には、様々な人間たちが食事をとり、酒を飲んでいた。

 視線を巡らせて、呟く。


「妙だな、誰もスマホを持ってない」

「だ、か、ら、異世界なんだって!」


 自称女神が本日何度目かの突っ込みをする。

 テーブルをバンバン叩く女を冷たい目で見ながら、


「もうそれは聞き飽きた」

「誰が言わせてんのよ!」


 ダメだこいつ……


 女神は頭を抱えていた。

 全神協会では、異世界に転生された人間をサポートする仕事をしている。

 このところ、営業成績は結構良く、今年はナンバーワンをとるつもりで、この世界に来たというのに、最初のチート能力付与だけで、これほど手こずってしまうとは。


 早いところ、この男を強化して次の世界に行かないと、他の女神に負けてしまう。

 そう思うと非常に焦る。


「ね。ねえ。ギルドにいかない?」


 嫌でも異世界を感じる場所に連れていくしかない。


「普通にいかないだろ」


 あっさり断られる。


「このやろ……」


 テーブルの下で思わず、拳を握り締める。


「はい、お待たせしました」


 と店員が現れて、次々に料理が出されていく。

 おいしそうな匂いが鼻腔をくすぐる。


 しかし、なぜか疑井さんは手を出さない。

 女神は怪訝に思いながら聞く。


「……食べないの? お腹減ってるんでしょ?」


「まずお前から食え。妙な薬でも入ってるかもしれん」


「入ってない!」


 女神は絶叫した。

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