第4話 疑い深い疑井さんは、到着する

 疑い深い疑井さんは、異世界転生した。


 ようやく疑井さんは、森を抜けていた。


「やれやれ」


 かなり歩いた。

 先ほど見つけた適当な泉で軽く水浴びだけはできたが、さすがに空腹は誤魔化せない。

 宗教のやつらがあれから追いかけてくる気配はない。

 だが、用心しておくことに越したことはないだろう。


「む」


 馬に乗る人間が見えた。

 それも複数いる。それらはこちらではなく、どこか遠くへ向かっている。

 つまりその方向へ行けば、街があるかもしれない。


 ◆


 街に到着した。

 その街は城壁があり、巨大な仰々しい門がそびえている。


 疑井さんは、さすがに驚いていた。


「これは、ヨーロッパ? 数日眠らされていたということか。日本にもこういうテーマパークはあったが……」


 しばし観察するが、歩いている人間は日本人のように見えない。

 そういえばさきほどの宗教のやつらも、見た目は日本人のように見えなかった。


「だが日本語、だったな? 違和感はなかった」


 まあ、拉致するような奴らだ。ある程度言葉は覚えているのかもしれない。

 とりあえず門に近づいていく。


「ようこそ、旅の人」


 門番らしき男が、笑みを浮かべて話しかけてきた。


 日本語だな?

 やはりテーマパークか?


「入場料はいるんですか?」


 一応聞いてみたが、


「いや、うちの城主は開かれた方でね。通行税などはないよ」


 なかなかロールプレイが効いている。

 入場料ではなく、通行税とは。


 中に入ると活気が溢れていた。入り口から様々な店が並び、どこからか、旨そうな匂いが漂う。

 反射的にポケットを探るが、財布がないことを思い出す。


「俺としたことが、あの場に置いてきたのか覚えてない」


 疑井さんは、財布を鞄の中に入れる習慣だった。

 クレジットカードを止めないと、あの宗教のやつらが使い込むかもしれん。

 いや逆に逮捕のチャンスか。


 ぶつぶつ言いながら、スマホを取り出す。

 森を抜けたというのに、こちらも圏外だ。


「やはり海外の可能性のほうが高いな。しかしなぜ言葉がわかるのだろう」


 聞き耳を立ててみるが、通行人の言葉が理解できる。


「ふむ……すみません。ここってどこの国ですかね?」


 会話ができるか、試すことにした。

 近くにあった何かの肉を焼いている露店の店主に話しかけてみる。


「あん? なんだ、兄ちゃん。知らずにうちの国に来たのかい? デーレだよ」

「……ありがとうございます。これいくらですか?」


 肉を指さす。


「10ゴールドだよ。買うかい?」

「いえ、やはり結構です。ちなみに日本大使館は近くにありますか?」

「にほん?なんだいそれは?」

「ありがとうございます」


 疑井さんは、浮かぬ顔で店から離れると考える。


 デーレだと。

 聞いたことがない。


 あとゴールドっていうのも知らないな。

 つまり主要国ではないということだな。しかし雰囲気は欧州だ。小国なのかもしれない。


「しかし腹が減った」


 さきほどの焼いた肉を思い出して、腹が鳴る。

 金がないというのは辛いな。

 日本大使館も近くにはなさそうだ。あの反応だと、日本すら知られていない可能性がある。

 唯一のポジティブ要素は、言葉はなぜか通じるということだ。


 どんぶらこ。

 どんぶらこ。


「……」


 嫌な予感がして、横目で見やると、

 そこには大きな桃が捨てられていた。


「捨てられてないし!」


 大きな桃は、真っ二つに割れると中から露出度の高い女が、非難の声を上げながら出現した。


「だから、ほら、言った通りでしょ。辛いよね、チート欲しいよね」


 うりうりうりと、疑井さんの脇を突いてくる動作をする。


「なんだ、宗教女」

「その言い方やめて!」

「とりあえず盗んだ俺の財布を返せ」

「ぬ、盗んでない!」


 わーわーと喚く女。


「そもそもここはどこの国だ。吐け!」


 首を絞める。


「や、やめてって! デーレ共和国だよ!」


「どこだ、それは。聞いたことないぞ。俺を日本へ戻せ。なら許してやる。あと上司にも土下座して俺を拉致したことを報告しろ。断じて無断欠勤ではないとな。あと二度とこんなことしないと約束しろ。なら許してやる。あと、帰りの飛行機はファーストクラスだ。これは譲れない。あと」


「多いよ、注文!」

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