第3話 疑い深い疑井さんは、女神を自称するやつにキャッチされる
疑い深い疑井さんは、異世界転生した。
妙な桃をスルーし、しばらく森の中を歩いていると、不意に背後から声が聞こえた。
「ちょっとまて、ちょっと待て!」
女の声だ。
しばらく聞こえない振りをして歩き続ける。
街中で声をかけられても無視するだろう?
あれと同じだ。
ろくなことにならない。
何か買わされるか、
何か寄付させられるか、
どこかの店に連れていかれるか、
とにかくろくなものではない。
「ちょ、ちょっと待て!」
声に焦りの色をにじませて、誰かが追いかけてくる気配。
疑井さんは小さく舌打ちすると足の歩みを早め、大きな木にたどり着く。
そしてそれを背に振り向く。
するとそこには、シースルーの衣装を纏ったやたらと露出度の高い女が息を切らせていた。
「ふ、普通はすぐに立ち止まるでしょうが」
「……こんな森の中で、こんな格好をした女に声を掛けられて、誰もとまらんだろう」
胡散臭げに、上から下まで見回す。
ナイスなバディに、薄手の原色ドレスを纏っている。
「い、今までは簡単に立ち止まってくれたぞ」
「……で何の用だ? キャバクラか? 俺はいかない。ドリンク一杯500円でもいかない。変なサービス料をとられるんだ。こういうやつは」
「キャバ……!」
その言葉に女は激高したように言葉を詰まらせると、顔を赤くした。
「私は女神だ! そのような者ではない!」
「ちっ。さっきの宗教関係者か。もう見つけられるとはな。何の用だ?」
「なんという上から目線のやつだ、まったく」
女は妙な上から目線の顔をすると、
「異世界人の転生ときたら決まっているだろう? せっかく声をかけてやろうとして、桃を送り込んでやったのに無視するし……まあいい! チート能力をやろう。この中から選べ」
とぶつぶついいながら一枚の紙を差し出してきた。
疑井さんはそれを一瞥すると即答する。
「いらん」
「は? ちゃんとみてないよね?」
「いらんといっている」
「いやいや、君苦労するよ? ほんとに」
疑井さんはくるりと踵を返すと再び歩き出す。
「ちょ、ちょっとまって」
女に腕を掴まれる。
それを振り払うと言い放つ。
「結構だ。いきなり物をくれるパターンは、詐欺常套手段だ。タダほど怖いものはない」
「えええ? 詐欺? わたしが? 女神なのに?」
「あと自分で自分のことを女神という奴も信用ならん」
そういうと疑井さんは立ち去って行った。
あとには茫然自失した女神が残されていた。
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