六時間目 国語 筆者の思いを述べよ

「そう、なら聞かせてほしいわ」

ぴりっとした空気がリビングの中に漂う。

「なぜ、こんな事をしてまで事件を偽装したのかを」

「もちろん、これも憶測です」

「構わない」

「戸永くんは、自分を殺したかった。正確には自分を殺したように見せたかったのだと思います」

「どういう事?」

「何もしないでふっといなくなったのなら行方不明、もしくは家出のように思われてしまう。ただし、私に『遺体』を見せる事で、なんらかの事件に巻き込まれたと思わせる事ができる。そうする事で、自分のことを諦めて欲しかったのではないでしょうか」

「誰に?」

「あなたに」


だんだんと冬の夕焼けが沈みつつあった。

「これも私の想像です。失礼な点があったら謝罪します。」

今度は戸永母は返事は返さなかった。

「あなたは息子さんに干渉する事が多かった。戸永くんはそれを煩わしく思い、家出する事を決意した。しかしどこかで生きていると考えれば絶対に探すまで諦めないだろう。なので自分が死んだように見せかける」

マネキンのように顔を固く動かさず、こちらを見つめていた。浦辺もメデューサに見つめられたかのように全身を固く動かさなかった。

「私がそう思うようになったのは、戸永くんの言葉にあります。おすすめの本について聞いた時に、何も例を上げなかった。土曜日の図書委員当番。人が来ない間は好きな本が読めるのにしょうがないと返してきました。そして、私が見る間、本を読んでいる様子を見せなかった」


「それがどうつながるんだ?」浦辺が尋ねる。

「戸永くんは本来読書があまり好きではなかった。ならなぜ図書委員になったか。放課後に係の仕事があり、家に戻る必要がないから」

「部活をさせなかったの」

ようやく戸永母の口が開いた。

「運動の部活をして怪我をしては大変。合宿で変な事を教わっては大変。そんなことが息子を追い詰めたのかもしれないわ」

「私の予想では、まだ戸永くんは生きていると思います。どこに行ったのかわからないですが、きっとまだ近くにいる筈です。」

「もし次会うことがあったら」

ようやく戸永母はお茶を一口飲んだ

「もう一度話し合いたいわ」

「はい」

「彼ね、将来の夢について決して話そうとしなかったの」

「そうなんですか?」

「作文もそれだけは空白のまま。聞いても教えてくれなかった」

「はぁ…」

「それは分からない?探偵さん」


街灯が照らす中を歩いていた。

街路樹はほとんどの葉を道端に落としていた。

「なんで俺連れてきたんだよ」浦辺が口をΣ(シグマ)の形にしてぶーたれた。

「戸永母が逆上して襲ってくるかもしれないでしょ」

「ボディーガードか」

「ううん、盾にして逃げようと思った」

「こいつ…」

「いいじゃん、結果的に落ち着いてたんだから」

「警察にこの事話すのか?」

「決定的な証拠もないし、話したところで解決出来るかわかんないじゃん。警察もちゃんと捜索はしてるようだし、任せるよ」

「まぁ、そうなったらいよいよ一件落着だな」

そう、一件落着。

そうなのかもしれないが、私の胸の内にはモヤモヤが残る。

こんな事じゃ探偵とは名乗れない。

一つ、警察があれから数日間やっきになって探しているがまるで戸永のその後の様子が掴めない。なぜだろうか?

一つ、戸永が隠していた将来の夢とはなんなんだろう?

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