四時間目 物理 失った熱量を式にして示せ

「どーだった?ケーサツ」

ぱりっと晴れた日の冬の朝である。

「なんで知ってんの」

「情報社会なめんなよ。LINEグループである事ない事飛び交ってんぞ」

莉央は部活の朝練がある為、早々と学校へ向かっている。一方3年で学業を優先するという大義名分を得た私はぎりぎりまで眠るという大変健康的かつ不健康な生活を送る事ができた。

横にこいつが。

浦辺が出てきたという事を除いては。

「今の取り調べってさ、さすがに殴られたりしないよな」

「あるか。あと取り調べっていっても30分くらいですぐ出してくれたよ。」

「そーなの?」

「うん。まだ事件、って事にはなってないしね…。」


結局その日の夜になっても戸永は見つからず、捜索願が出される事になったらしい。

警察側は家出として捜査しているらしく、私の元に来た警部たちもその日にあった事について詳しく聞かれた。

だが。あの日見た光景。そしてその後何も残さずに消えてしまった戸永。

明らかに戸永は誰かによってその姿を失ってしまったのだ。そして…。

「でも、唐座が見た戸永が本物だとしたらさ」

「本物に決まってんでしょ。なんで好き好んであいつの幻覚見んのよ」

「戸永、どこ行ったのって話になるよね」

図書室は最上階の4階。他に教室はない。窓はあるが、当然そこから降りるにはハシゴか何か必要だし、グラウンドで部活の練習している学生たちに見つかってしまう。

しかし階段から降りるとすると、3階にいた莉央の証言と食い違う点がでてくる。

時系列に沿って整理すると、戸永と離れ鍵を職員室に戻し、浦辺と2階の教室で話した後で

図書室に戻る。異変に気づき図書室から2階の職員室に行き再び戻ってきた時にはすでに戸永は消えてしまった。

つまり、あの時間の図書室は「開かれた密室」という事になる。

ただ。

「ねぇ、浦辺ってずっとあの教室にいた?」

「あの時?あーいたいた。結局なんて書いていいか分かんなかったからな。ずっと悩んでた」

「そっか…」

「そーいや、ずっと3階から吹奏楽の曲聴こえてたぞ。なんか心配してるみたいだけど」

「そう、でもそうなると謎が残るな…。」

「で?」

「え?」

「進路の書類、どうすんだよ」

「あ」

あ。あ。あ。抜き足差し足。からの、全力ダッシュ。

やはり私は、探偵よりも大泥棒の方が向いているらしい。


昼間の図書室は放課後と比べて人が多めだ。

私はめずらしく本を持たずにカウンターにもたれ、部屋の中を見渡していた。

窓を開けて屋上へ…。無理そうだ。何か掴めるものもないし、自分は逃げる事が万が一できたとしても戸永を上へと上がることはできないだろう。

そもそも、なぜ戸永を消す必要があったのだろうか?

仮に恨みがあり、殺したとしたらそのまま放置しておけばいい。しかもこんな図書室を狙う必要もないだろう。

何か。何かあるはずだ。

この密室のドアを開き、逃走することのできる「鍵」が。


「戸永、まだ見つかってないらしーね」

莉央だ。

「珍しいじゃん。部活一直線女のあんたが図書室くるって」

「最近練習付き合ってくれないからどこ行ってたのかなーって思ってたの」

いやはは、と笑うと莉央が持っている本に気づく。

「借りてきたの?ついでに私の読んでる本も借りてよ」

「残念。読んでたとこでした。自分で借りな」

「何の本?」

「音大についてとか」

「もう大学受験調べてんの?」

「やっぱレベルが高いね。好きでやってる事なんだけどさ」

そういいながら630と割り振られた本棚へと本を返した。

何か好きなことがある人でも、将来について悩む事があるのか。

これは一つ学びだな。


「ん?」

なんだこれ。

「どうしたの?遥」

「いや、なんか…」

拾う。ネジだ。

「ネジ?誰か落としたんじゃない?」

いや、多分これは…。

同じものを見つける。やっぱり。ということは…。

「遥?」

「莉央、まだこれは仮説だけど、戸永を消した犯人、見つけたかも」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る