今では出てこない彼らを想う

 文の事を語ろうと思えば、字数が足らない。

 俺は文と結婚した。

 

 実家から隔離しない事には良くなることは無いと判断した俺は、早々にプロポーズしたのだ。


 実家と距離を取ることで文は少し落ち着いた。

 両親も毒親ではあるが、根本的には悪い人達ではない。


「昌行君には感謝してる。文を普通にしてくれて」


 感謝してくれるのはいいが、これにはすごく反論したかった(笑)


 義理の両親と喧嘩しても仕方ない。

 今でも病気に関して二人に語る事は無い。


 文は、俺が責任を持つからもう良いのだ。


 その後も色々あるのだが、省く。

 結婚後、1年くらいで、ユヅキが俺に言った。


「本体の事、頼んだわ」


 それっきり、ユヅキを含めた彼らは出てこなくなってしまった。

 文に聞くと「一応いる感じはあるけど、みんな寝てるみたい……」という。

 

 統合か休眠か。

 おそらく統合だと思う。何故なら主人格の文にも変化があったからだ。

 

 怒るときはしっかり怒る。不満があれば意見を言えるようになった。

 そんな時は男口調になるのが面白い。まるでユヅキみたいだった。


 悲しくて泣く時は、幼児の様に泣く。でもそれはしーちゃんではなく文として泣いている。よしよしすると「文ちゃんな、文ちゃん、怖いんよ」と甘えてくる。


 もはや主人格を隔離保護する必要がなくなったのだと思う。

 


 思うに、のだ。


 あくまで文の中、シミュレーション上で稼働しているにすぎない。

 アカウント切り替えみたいなもんだ。分けて考える必要はない。


 そう思った俺は、別人格達をあくまで文の一側面であると定義した。

 そして、彼らを平等に愛した。

 ユヅキも、しーちゃんも、カノンもハイネもみんな俺の家族だ。

 嫁というと男性格のユヅキは嫌がる(笑)


 認めて受け入れたんだ。


 そう思ったのも理由があって、演技がヘタだったからだ(笑)


 彼らの振る舞いは、文の演技力に準ずるため、みんなそれぞれ別の人格であるのに、いたるところで「文」だった。


 何をつかさどっているのかも明確だったから、文が抱える不満、欲求、渇望がわかりやすかった。


 彼らは全身全霊で「こうしてほしい。こうしてほしかった」と訴えかけていた。


 あとはそれを満たしてあげるだけだった。



 今年で結婚9年目になる。子供も2人生まれた。

 色々問題を抱えながらもぼちぼちやっている。

 

 文も発作的に逃げ出してしてしまったり、リストカットに至ることはあるが、以前よりは落ち着いた。


 この病気を抱える人が全員こうであるわけでは無い。

 文の場合は、かなり運が良かった。


 我が妻ながらベースがお人よしでいい子だから人を害する事がなかった。

 別人格達も好意的だったから共存できた。

 

 狂暴な人格だったらどうだったろうか? 

 なってみないと何とも言えないが、それでもやはり、否定するのは良くないだろう。


 抑圧すれば、必ず他の部分で噴出する。


 別人格を否定しない。

 よく関わり、理解する。


 俺は、これが大事な事だと思っている。



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ぽっちゃり妻の内なる『アイツとあの子とその他数人』 千八軒 @senno9

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