初デートで連れまわして、体調を悪くさせるボケ

 確かにふみちゃんは太っていた。

 だが、肌は若々しかったし、結構可愛いと思ってしまった。


 だからヨシ! 

 それにここまで来て外見でやっぱりやめ! とか最低最悪のカス野郎になっちまうぜ! 


 そう思った俺は、予定通りデートにいく事にした。


『どこに行きたい?』と聞いたら、ある不動尊に行きたいという。


 神社仏閣巡りが好きらしい。

 不動明王は悪いものを退治してくれるからな。

 ご利益にあやかりたいのだろう。


 だが、まずは腹ごしらえだ! 

 迎えに行ったのは確か11時頃だった。

 事前に調べておいた京都の美味しいパスタ屋さんに彼女を誘った。

 

 京都の街は、歩きで回るのは良いが、車で行くにはすこぶる不便だ。

 なにせ観光地だから、駐車場が高い。

 そして場所も分かりにくい。


 ネットでお勧めの場所を調べただけだったので、ナビを頼りに行ったのだが、碁盤目ごばんめ状の道をグルグルと回る羽目になった。

 京都に行ったことが無い人は知らんかもしれんが、京都の街は昔の平安京の名残でこうなんだ。


 それにやたらと一方通行が多い!!

 これが、車で行くと不便な理由だ。案の定俺も迷っていた。

 せっかくの初デートだってのに、かっこ悪いところ見せたくないね。


「ごめんね、もう少しでつくから」

 と謝りながら内心冷や汗が止まらなかったのを覚えている。


 やっと着いた店は、意外と小さくて、古い民家を改築したような佇まいだった。だが、客も多く、人気の店なのは間違いない。

 

「すわって。何が良い?」

 と聞くと、文ちゃんはもじもじしながら


「私は水でいいです。昌行まさゆきさんは食べてください」


 何て言うのだ。なんでなんで? そんなこと言わずに食べようよ。と聞くと。


「お金が無いから……」


 ハァ?


 そんなもん出すに決まってるだろ!!!!


 俺は最初から全部出すつもりだった。

 当然だ。初デートで女の子に金を出させるヤツを俺は認めない。


「何言ってんの。全部出すから好きなもん食べな?」


 そう言って笑い飛ばした。

 文ちゃんは、申し訳なさそうにしながら、小さなオムライスを頼んでいた。


 料理が来るまで俺はしゃべりにしゃべった。


 文ちゃんも緊張してるだろうし、(もちろん俺も緊張していたが)沈黙は威圧感になりえる。相手は精神科にかかるような子だ。不安感、孤独感を与えてはいけないと思って、いろいろ話した気がする。


 彼女はそれをうんうんと真摯しんしに聞いてくれていた。

 目を逸らさずにまっすぐ顔を見て。もちろん携帯なんか触らない。

 いい子だなぁとその時は思っていた。


 まぁ、ここ。

 彼女の闇の一端だったのだが。

 

 結局文ちゃんは、オムライスを半分も食べなかった。


 ◆◆◆


 その後、不動尊に行った。

 石段を上り、参拝した。文ちゃんは楽しそうにしていたが、何やらふらふらしだしたんだ。


「大丈夫?」

 俺は心配になって、休むように言う。

「ちょっと疲れちゃって……、お薬のみますね」

 そう言って、彼女は薬を飲む。


 その時飲んだ薬は何だと思う?


 彼女は精神科の患者。もちろん精神科薬だ。

『リスペリドン内用液2mg/2ml』

 

 割とガチの代物だった。


 俺たちは、不動尊を後にする。

 クスリを飲ませたが、文ちゃんはぐったりして頭ぐらぐら。

 え、まじで。大丈夫? 車に何とかのせて移動を開始したが、文ちゃんは相変わらず、薄目を開けて心ここにあらずだった。



 ここが一番焦った。


 どうする病院に連れていくべきか? 本人に聞いたが短く大丈夫と。

 

 でもどこかで休ませなきゃ……。

 とにかく横に慣れるところ。でもそんなところあるか? 

 

 自分でも意味が分からないのだが、その時閃いた。


 


「と、とにかく横になれるところに行くからね!」


 意味の分からない理屈でラブホに車を走らせた。

 誓って言うが、下心は無かったんだ。ただ、冷静さは失っていたが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る