第4話 連絡先交換
少しだけ整理を進めた。
気づけば時間はもう二十時。
そろそろ飯でも食べに行くか。
「夜桜、そろそろキリにして出掛けよう」
「はい、分かりました」
手を止める夜桜は、立ち上がって俺の元へ。こうして視線を向けられるだけで……なんだか照れるな。
「ところで、ずっと制服だよな、夜桜。私服はないの?」
「火事で燃えてしまって制服と学校指定のジャージくらいしか……」
「マジか。じゃあ、洋服とか下着も買わないと。って、俺が買ったらヘンタイになっちゃうな。おこづかいをあげるから、それで買ってくれ」
「そ、そんな、悪いです」
「悪いも何もあるか。義理の妹なんだから問題ない」
「……っ」
夜桜はなんだか泣きそうになっていた。……やっべ、俺なにか言ったかな。
「すまん、余計なことを言ったか」
「いえ、違うんです。すっごく嬉しくて」
それで泣きそうになっていたと。
「また明日に買いにいこう」
「ありがとうございます、兄さん」
家を出て、しっかり施錠した。
コンテナハウスのセキュリティは万全だ。おじさんのススメで警備会社と契約して、万が一があったら、すっ飛んできて貰えるようにしてある。
監視カメラも複数台設置してあるし、なにかあっても犯人の顔はばっちりだ。
さて、そんなことよりも飯だ。
どこへ行こうかなぁ。
「夜桜、なにか食べたいものとかある?」
「兄さんにお任せします」
「そんなこと言わずに、せっかくだからさ」
「う~ん……そうですね」
悩む姿も可愛いな。
その横顔を眺めていると夜桜は困った表情をしていた。どうやら、思いつかないらしい。
「分かった。じゃあ、無難にファミレスにしよっか」
「ファミレス! いいですねっ」
いろんなメニューがあるし、デザートもたくさん。しかも安い。経済的だ。
徒歩十分ほど歩くと『セイゼリア』が見えてきた。
家のコンテナハウスから近所だから、ここをよく利用していた。
「到着っと」
「わぁ、こんな近くにあったんですね」
「たまにここでゆっくり仕事や勉強していることもあるよ」
「おぉ~」
尊敬の眼差しを向けて来る夜桜。そんなお星さまみたいにキラキラした視線を向けられると、顔が熱くなる。
なんか……良い気分。
入店して、席案内を受けて隅の席へ。
制服姿の女子とこうして飲食店に入る日が来るなんて、思わなかったな。
永遠にないと思われていた青春を感じる。
「そら、メニューだ。夜桜、利用したことある?」
「わたし、ダスト派なので」
「あ~、ダストね。あっちも美味いよな。ちょっと高いけど」
「はい。でも、味は濃い目なので好きなんです」
へえ、夜桜は味の濃い料理が好きなんだ。ちょっと良いことを聞いた気分だ。
「いいかい、夜桜。セイゼはメニューの番号をこの注文用紙に記入するんだ。で、呼び出しボタンを押して、しばらくするとスタッフが確認しに来る。――と、俺みたいな陰キャにも優しい設計なんだ」
「そういう仕組みなんですね」
「ああ、だから好きなのを選んでいいぞ」
メニューを開いて一緒に見ていく。
ペペロンチーノ、ピザ、ドリア、ハンバーグ……デザートは、パンナコッタやプリンやケーキなど。
ああ、そうだ。
これを忘れてはいけない。
飲み放題。
正直、一杯二杯しか飲めないけど、ついつい注文しちゃうんだよなぁ。
俺はハンバーグとライス、それと飲み放題を付けた。夜桜はペペロンチーノと飲み放題と決まった。
「これでいいですか?」
「デザートはいいのか」
「えっと……その、太っちゃうので」
「いやいや、夜桜は十分に細いじゃないか。遠慮することないぞ。今日は祝いでもあるし」
「本当に良いんですか?」
「ああ、好きなのひとつ選ぶといい。俺のおごりだ」
「で、では……パンナコッタで」
イタリアの洋菓子らしい。
白いプリンってところかな。
「おう。番号を書いておけ」
「ありがとうございます、兄さん」
夜桜は番号を記入した。
あとはスタッフを呼び出して――注文完了っと。
「ふぅ、あとは待つだけだな」
「そうですね。……あ、ところで兄さん」
「ん?」
「その、連絡先を交換しませんか」
「――――」
女の子から連絡先の交換を要求され、俺は頭が真っ白になった。
……いや、義理の妹なんだ。なにも変じゃない。けど、初めての経験だから……情けないけど手が震えた。
「兄さん?」
「俺なんかでいいのか」
「兄さんですから。家族ですもん」
「そうか。そうだよな。うん」
俺はスマホを取り出して、電話番号を教えた。夜桜の番号も教えてもらい、登録完了した。
まさか女子の名が俺の電話帳に刻まれる日が来ようとはな。
メッセージアプリにも自動追加された。
これでリアルタイムに連絡が取り合えるわけだ。
おじさんとか仕事関係者の名しか登録されていなかったスマホだったが、ついに女子の名。それも義妹の名が登録された。
なんか新鮮で良い。
「さっそくメッセージを送ってみますね」
すぐに変なスタンプが送られてきた。
「受信したよ。なにかあったら直ぐに連絡するんだぞ」
「はい。不安なので毎日ラインしますからねっ」
「毎日か。うん、いいよ。夜桜と話すの楽しいし」
「わぁ、嬉しい。わたしも兄さんともっともっとお話がしたいんです」
花のような笑顔を向けられ、俺は固まった。……やばい、夜桜が可愛すぎて……辛い。心の中で俺はずっと悶えていた。
あぁ~~っ、もう……!
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