第27話 お友達へ婚約の報告をしました
王立医学アカデミーにて。
その日は、アーサーのつてで実現したナヴァル王国から著名な似顔絵師を招いての講義があった。それは、最新の犯罪捜査にも一役買っているという、昔の姿絵から加齢や生育環境による変化を取り込んで現在や未来の似顔絵を描く技術に関してのものだった。
授業の最後に、とある人物の肖像画をもとに10年後の姿を予測して描くという課題が与えられた。一番優秀だった者には講師が直々に似顔絵を描いてくれる特典が与えられるということで、みな真剣に取り組んだ。
課題として与えられたのは、奥二重が特徴的な10歳前後の少年の肖像画だった。奥二重のまぶたは遠い東の国に住む民に特有のものだ。肖像画の少年は、クラスメイトの誰もが見たことのない人物だった。ただ一人、ローズを除いて――。
ローズはその姿絵を見て、暫くの間、衝撃で固まっていた。彼があまりにも、少年時代のリョウに似ていたからだ。当然、ローズはその少年の10年後の姿を容易に描くことができた。
アーモンド形の切れ長の瞳。
細く筋の通った高い鼻。
上唇よりも厚い下唇。
意思の強そうな眉毛――
結果、ローズのデッサン画が最優秀作品に選ばれ、約束どおり特典として似顔絵師の連絡先を渡された。ローズは実力で勝ち取ったものでないことに気が引けたが、辞退するのもおかしな話なので、有難くそれを受け取ることにした。
最後に講師は、肖像画のモデルがナヴァル王国の第二王子であるエドワード殿下であることを明らかにした。彼の母親は東の国から輿入れしてきたとのことで、奥二重のまぶたの理由もそれで納得がいった。
長い間不遇な環境に置かれていたため、国内でも最近まで彼の存在が知られていなかったのだと、後からアーサーにそう聞いた。
リョウは今世に実在する人物ではない。彼によく似た青年のデッサン画を持っていたとしても、それがフェルディナンに対する不実になるわけではないだろう。
それに、似顔絵師に特典として与えられた権利を行使するときには、このデッサン画が証拠として必要になるかもしれない。だとしたら、失くさないように持っておいた方がいい。
そこでローズは、そのデッサン画を栞のように医学書へ挟んでおくことにした。
それが後々、大いなる誤解を招くことになるなど、この時は思ってもみなかった。
――その日の夕方。
ローズはいつもの4人組ことアーサー、クロエ、アレクサンドルと一緒に最近話題のカフェでお茶をしていた。
「じゃーん!」
突然、ローズは左の薬指に輝く指輪を3人へ見せた。
ローズとフェルディナンの婚約は、表立っては発表されていない。
しかし、夏夜の王宮舞踏会でローズがフェルディナンと2回ダンスを踊ったという噂を耳にしたクロエから「いったい、どういうことなの?」と聞かれ、この3人には話すことにしたのだ。
「わー!! とっても素敵! アンティークの婚約指輪だなんて、ロマンチックね」
うっとりした眼差しでクロエがそう言う。
(結婚を夢見てるクロエの前で、実はお飾りの婚約者だから卒業後にはこの指輪も返却しなきゃいけないのよ、なんて絶対に言えない……)
「えっ!? ロゼ、婚約したの? 相手は誰? 俺の知ってる人?」
アレクサンドルはローズが婚約したことを聞かされて心底驚いた顔をしている。
「――相手はヴァンドゥール公の次男だろう? ……王命って言っていたけど、ローズのこと、大事にしてくれてるのか?」
アーサーが若干の不機嫌さを含んだ声でそう聞いてくる。
「うーん、まだ3回しか会ったことないからよく分からない。それに……婚約式以来、会ってないんだよね。ただ、今までの婚約者みたいに毛嫌いされたり、存在を無視されたりってことはないかな」
実は婚約式のすぐ後、東部地方で国防上の問題が起きてフェルディナンはもう数週間、王都を離れているのだ。
「まっ、今度みんなにも紹介するから! それよりも秋休みの予定なんだけど――」
あまり突っ込まれるとボロが出そうなので、報告だけ済ませるとそそくさと話題を変えたのだが、後日、ローズのために盛大な婚約祝いをしてくれることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます