第5話 せめぎ合い
体が動かない。
目と口だけは動かせるが、それ以外はまったく僕の言うことを聞かない。
ふと気配がして視線を横に向けると、そこには白いワンピースの女が立っていた。僕を見下ろしている。
滅茶苦茶怖い。顔が怖い。
だが僕は彼女の素性を知っている。彼女は
怖いのは怒っているからか? 僕がホスト宛てのチョコレートを食べたから怒っているのか?
玲のおバカちゃん。そんな奴より、僕に食べてもらったほうがチョコレートも幸せなのに。
「玲にゃん、チョコレート、おいしかったよ。あれって手作りだよね? 君の真心は僕が食べてあげたよ。ホワイトデーのお返しは何がいいかな? ……うぅっ!」
玲の右手がニュッと伸びてきて、僕の首を絞めた。
幽霊の怖ろしい顔が僕を見下ろしている。
苦しい。息ができない。首の骨が折れそう。
でも、でも……。
「玲……にゃん……。君の手、ひんやりして、気持ち、いい、よ……。僕も……玲にゃん……に、触れ、たい……なぁ……」
僕が玲に渾身の笑顔をプレゼントしてあげたところで、僕は気を失った。
翌朝、目が覚めると、やはり首に手形が付いていた。ヒリヒリする。
かなり本気で殺しにきている気がするが、殺し切れていないところはポンコツなのか、ドジっ
「さては玲にゃん、僕とスキンシップを図りたいんだね? また会いたいから殺してしまわないんだよね? 僕も君の存在を感じられて嬉しかったよ」
それに気づくと、僕は嬉しくなってしまった。玲への愛情があふれて止まらない。
僕はSNSから玲の顔写真を引っ張ってきて、USBメモリに保存した。
それをコンビニまで持っていき、複合機でカラープリントした。
家に帰った僕は、鈴音ミーアの抱き枕の顔の上に玲の写真を貼り付けた。
「あぁ~、かわいいねぇ~。玲にゃん、これでずっと一緒だよぉ~」
僕は抱き枕に抱き着き、玲の写真に顔をこすりつけた。
一時間ほどそうしていると、いつの間にか眠っていた。
「…………」
目が覚めた気がするが、頭がぼんやりしているので、これはきっとまだ夢の中だろう。
僕が視線を横にやると、ベッドの脇に白いワンピースを着た幽霊が立っていた。
「玲にゃん、また会えたねぇ」
ズイッと玲の右手が伸びてきて僕の首を絞める。
しかし、今日は体が動く。
「あらぁ~。玲にゃん、夢の中だと、僕のほうが力が強いみたいだねぇ」
僕は玲の右手をものともせず起き上がった。
玲ばかりズルい。僕も玲に触れたい。
僕は玲の髪をかき分けて頬に手を添えようとした。
しかし僕の手は玲の体を通り抜けた。僕のほうからは幽霊には干渉できないらしい。
「そっか~。仕方ないなぁ~」
僕はベッドに寝かせてあった玲の顔の抱き枕を布団から引っ張り出した。そしてそれを幽霊のほうの玲に重ねる。
「これで僕も触れるね」
実際に触るのは抱き枕だが、ひんやりしているから幽霊の玲を触っている気分を味わえる。
僕は玲の顔からおなか、太もも、それから脚をゆっくり撫でた。
三往復くらいは撫でた。
「玲にゃん……?」
幽霊の玲はいつの間にか消えていた。
「素っ気ないなぁ、玲にゃんったら」
僕は夢の中でふて寝した。
ふて寝しながら、愛を
「ねえ、君って地縛霊? 地縛霊って場所を移動できないんでしょう? ごめんね。絶対に引っ越さないよ。君は僕が嫌いかもしれないけれど、僕は君が好きだからね」
「ねえ、君はまだあのホストのことが好きなの? 僕に乗り換えなよ。『こんなに相手のことを思っているのに、なんで振り向いてくれないの?』ってよく思っていたでしょう? だったら、僕の気持ちも分かるよね?」
「最近、心理学を勉強し始めてさぁ。単純接触効果って言って、人って接する回数が多いほど親近感が沸くんだってさ。僕は今年のゴールデンウィークは帰省しないことにするよ。少しでも多く君の視界に入るためにね」
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