第4話 幽霊の身元
僕はガバッと跳ね起きた。
どうやら幽霊は夢だったらしい。
それにしてもリアルな夢だった。
喉が痛い。首がヒリヒリする。
首に何か異変でも起きていないかと、鏡を見に行った。
「え……マジ……?」
僕の首には真っ赤な手形が残っていた。
あれは夢だと思っていたが、本当に首を絞められていたようだ。
そういえば、ここは事故物件だった。幽霊が出ても何もおかしくはない。
しかし気持ちが悪いものだ。何がって、前の住人がどんな理由でどういう亡くなり方をしたのかを知らないのが、である。
僕は管理人に詳しく話を聞くことにした。
管理人の元を直接訪れて、前の入居者に何があったのかを尋ねた。
管理人は最初こそ渋っていたものの、あんまり僕がしつこく訊くものだから、最後には
前の入居者は男性だった。
ホストをやっていて、しょっちゅう客がツケを払わず逃げていたせいで、そこそこ人気のわりに極貧生活を送っていたようだ。
そのホストは客の一人にストーカーをされていた。
その客はツケばっかりでろくに代金を支払わないくせに、あれやこれやと要望ばかり出してくる厄介な女だったらしい。
ホストが彼女を出禁にすると、彼女はストーカーと化して彼に付きまとったという。
事件は去年のバレンタインデーに起こった。
ホストは付きまとう彼女を殴ってまで追い払ったが、その晩、ホストが寝ている間に女が部屋に侵入し、自分で作った毒入りのチョコレートを食べて自殺したのだった。
なんとも
そんな
僕みたいな誠実な漢に向ければ幸せになれるのに。
そんなことを思いながら、僕は自殺した女性についても調べた。
むしろこちらが本命だ。幽霊は明らかに女性だったし、亡くなったのもこの女性なのだから、この女性を調べなければ意味がない。
当時の新聞やニュースサイトの記事から名前を割り出し、名前からSNSを漁ってよく使うハンドルネームを突き止め、ほかのSNSも洗いざらい調べた。
そしてついに、彼女の写真にまでたどり着いた。
そのご尊顔はというと……。
「かわいい!」
猫っぽい顔は完全に僕の好みだった。大きな眼と鋭い八重歯が愛くるしい。
それから、小柄で胸は大きめ。僕は胸には興味ないけれど、小柄なのは好みだ。
しかも、年齢は僕より二つ下。
「なんだよ、バカホストめ。客としてではなく、普通に彼女にして付き合えばいいのに」
彼女に愛されていたホストに対し、猛烈な嫉妬心が芽生える。
それと同時に、この女性に同情するとともに、激しい怒りを覚えた。
「なんて見る目がない女なんだ。ほかの女もそうだが、おまえは特にそうだ。こんなクズみたいな男ではなく、僕みたいな優しい漢に目を向ければ幸せになれたものを」
僕は部屋に帰った。走って帰った。
息を切らしながら部屋に上がると、僕は夢で幽霊が立っていた場所のすぐ隣に立った。
そして、胸の前に両手で輪を作る。まるでそこに誰かがいて、その人を抱きしめるかのように。
「そこにいるかい? これからは、僕が愛してあげるからね、
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