第3話 目覚め
思いがけず快い返事を貰った翌朝、目的地もろくに聞かないまま集合時間に自宅まで迎えに来て下さった先生の車に乗り込み出発です。
走り出した車は宮崎熊本方面へ。途中、昼食を取りながら目的地へ進む車の中で異変は既に起こっていました。
首が据わらないという状態でしょうか。助手席に座る私の頭が前後左右にフラフラゆらゆら揺れています。側から見たら異様な光景だと理解は出来るのですが、意識して止めようとしない限り止まらない頭を揺れ動かしたまま目的地までの道中を過ごしました。
まず最初に到着したのは、熊本県の
車は道路沿いの広い駐車場ではなく、鳥居横の細い道に入り少し登ったところにある駐車場に停まります。ガチャ、と助手席のドアを開け一歩足を踏み出すと力が入らずよたよたとふらついてしまいました。
(なんだろう、この感じ……)
足元がふわふわしていて、前日の催眠が抜けきってないような……そんな状態を引きずったまま本殿へ向かう道を歩いていると頭上に揺れる木々のざわめきが何故だか「おかえり」「おかえり」と私に向かって言っているような奇妙な感覚がありました。
どこからくるのかわからない高揚感の中歩を進め参道の鳥居が見えた瞬間、ボロボロと堰を切ったように涙が頬を流れ落ちます。何が起こっているのか、自分自身でも全く解りません。
感情が溢れてきたとか、そういうことでもなく涙腺が壊れてしまったように涙だけが止まらないのです。鳥居を見て泣いて、手水舎で手を清めながら泣いて、その時に『私は、ここに来なければならなかったんだ』という気持ちが沸々と湧いて来ました。
本殿の前で柏手を打ち合掌すると中から宮司さんが出て来て頭上で鈴を鳴らしてくれます。そのしゃらしゃらという音に更に涙が溢れ、嗚咽を噛み殺して本殿への参拝を終えました。
そして本殿横を見ると左の方に二つの末社が見えます。その内の一つの左にある社……その立て看板に吸い寄せられるように目をやると『ミズハノメノカミ』という神様の名前が書かれていました。神話は好きですが、子供の頃に七五三でもらったイザナギ・イザナミとアマテラスの絵本程度の知識しかなく、聞いたこともない名前です。ですが、その文字を見て小さな鳥居を潜り、気付けば私は地面に頭を擦り付け平伏していました。蹲った姿勢の体の奥から込み上げる感情の渦に押し上げられるように更に涙がこぼれ落ちます。
『私はここに来なきゃいけなかった』『私はこの神様にお仕えしていた巫女だ』『もっと早く馳せ参じたかった』『遅くなってしまい申し訳ございません』……
前世療法を受けていた最中と違いビジョンとしては見えませんが、このような想いが感覚として伝わってきます。
一通り涙を落として謝罪をしながら気持ちの波が収まるのを待ってようやく頭を上げ、立ち上がることが出来ました。
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