エピローグ
次の日に長閑と写真屋を訪れた。店内の壁にいろんな機種のカメラが吊るされている。
「いらっしゃいませ」
店員がレジから私たちのもとへ歩いてくる。
「あの、プリントしたい写真はあるんですが」と私は店員に携帯の画面を見せて言った。
「そうですか? では、ついてきてください」
彼女は鍵でドアを開けて、私を暗い部屋に連れてきた。四隅にプリンターが置かれている。店員は一番近いプリンターに数枚の紙を入れて、パソコンを起動した。
「少々お待ちください」
店員はキーボードに視線を落としてパスワードを打ち込むと、髪の毛が肩にかかる。
「このケーブルに携帯電話を接続してファイルを選択してください」
私はカメラアプリを起動した。昨日撮った写真なので、スクロールもせずに選んでパソコンに送信した。
「写真は何枚必要ですか?」
「二枚お願いします」
天国に写真を送る方法はないので二枚にした。店員は『二枚』を打ち込んで立ち上がる。プリンターは大きな音を立てて、入った二枚の紙を吸い込み始めた。店員は排紙トレイから二枚の写真を手に取る。
「いかがでしょうか?」
店員は写真を見せた。一筋の髪が見えるほど解像度の高い写真だ。
「完璧です」と私は応えて店員と部屋を出た。
ドアを開けると、長閑がそこで待っている。
「写真はいかがでしたか?」
「意外といい出来だよ!」
店員は写真を袋に入れてカウンターに置く。
「二千円お預かりいたします」
写真屋に行くのは初めてだったから安いかぼったくりか区別がつかなかった。それでも、この写真は私にとって宝物だ。だから、私は早く会計を済ませて店を出ることにした。店の外に立ち止まって、袋から一枚の写真を長閑に手渡した。
「高級の写真ですね!」と長閑は驚いた表情で言った。
「どこに置けばいいのかな。机の上か、それとも鏡の傍らか?」
「日向なら、部屋のどこかに置けばいいと思います」
そうかもしれないね。毎朝目覚めると皆の顔が視界に入るんだし。
「じゃ、長閑はどこに置くつもり?」
「んー、多分押入れに貼ると思います」
「似合うかもしれないね」
長閑は写真を鞄に入れて少し顔を背ける。
「あたし、用事を思い出したから」
「そうか……。じゃ、また明日ね」
私と長閑は手を振って別々の道を歩いた。一人で歩きながら雲のない青空を見上げる。今頃烏三子と天奈は何をしているのかな、と私はふと思った。
家に帰ると、靴を履いて部屋に向かった。写真を袋から取り出して、写真立てに入れた。寝具に横になったまま、手を伸ばしてたんすの上に置いた。
いいなぁ、と思った。
私はいつか社会人になっても、烏三子のことは絶対に忘れない。こんな写真がなくても、彼女の顔がどんな時でも目に浮かぶし。
烏三子は、そういう人だからね。
【完結】学級の自称堕天使 私雨 @dogtopius
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます