第11話 そして、全てが白んでゆく

 白い光に目が眩む。

 だんだん上っているのを感じて、少し目眩がした。光が弱くなってきて、私たちは地面に横たわったまま青空を見上げている。

 立ち上がって目を細めた。地獄の暗さに慣れたので、周りが私には眩しすぎる。


「皆、大丈夫ですか?」と長閑は声をかけてくれた。


 なぜか、その優しい声が遠ざかっている気がする。耳を澄ますようにして目を見開いた。

その時、私は烏三子の姿に気がついた。

 彼女の背中には、黒くボロボロの翼ではなく、雪のように真っ白な翼が広げる。顔を見ると、頭の上に天使の輪が現れた。紫色の髪の毛が白髪に変わった。


「烏三子!」と私は叫んだ。

「吾輩は、天使の姿に戻っているのか!?」


 烏三子の体が眩しく輝く。周りの白い光が完全に消えた。周りを見渡すと、学校が視界に入って私は安心する。本当に帰ってきたんだ、と自分に言い聞かせた。

 そして、烏三子の前に天使のような人が現れた。


「よくできたよ、烏三子!」と天使は目を輝かせて言った。

「えー、どういうこと?」

「君は命をかけて地獄に堕ちて、天国に結界を作った悪魔を倒したんだ!感心するわ」

「あ、そうだよね。全てが計画通りだったよ」


 でっち上げじゃないか?


「ご褒美は、犯した罪を許してもう一度天使になれるようになることなんだ」

「そうか……。じゃ、天国にも帰れるようになったんだ?」

「ええ。天国に帰りたいなら、私と手をつないで行こうね」

「ちょっと、考えておくか」


 烏三子は私の方を向いた。


「ありがとう、我が眷属ーーじゃなくて、日向。やっぱりあの占い師の予言は正しかったけど、その裏切りのおかげでみんなが仲良くなれて、吾輩は天使になってもらったんだから、そんなに悪いことじゃないかな、と思っうけど」

「まったく!ちゃんと謝ればよかったのに」


 と、私は唇を尖らせて言ったけど、心の中に怒りは微塵もない。


「なんてね〜」と笑顔で付け足した。

「ま、吾輩は悪かったな。日向に巻き込まれてすみません」

「本当にいいですか? 天国に帰るって」と長閑は少し悲しげに言った。

「まだ決まってないじゃん!」


 正直言って、烏三子が天国に帰るのは嫌だけど、天国は彼女の居場所だとわかっている。だから、私のわがままを乗り越えて、天国に帰ってほしくなった。


「烏三子、天国に帰ってほしいのよ」

「そうか。長閑は?」

「あの、自分がやりたいことをやったほうが、いいと思いますけど」

「決まりにくいな。やっと仲良くなれた人達とあっという間にさようならだなんて……」

「それでも、天国に帰ったほうがいいよ。だって、せっかく天使になってもらったわね」

「まあ、確かに。でも、本当に吾輩が天国に帰っても構わないのか?」

「帰りたいなら帰ったほうがいい。帰りたくないなら帰らなくてもいいよ」

「もっと役に立つことを言いなさい、って日当は言ったっけ?」


 烏三子の言い返しに溜息を吐いた。そもそも私の言うことをちゃんと聞いているとは思わなかったのに……。


「たくさんの友達ができたね」と天使は口を挟んだ。

「そうだよね。日向が正しくないわけじゃないけど、やっぱり人間のように暮したいかな」

「つまり、天国に帰りたくないって?」

「帰りたくなくはないけど、今更天国にすらりと溶け込むかわからないんだ」

「そんなに悩まなくていいよ……。少なくとも、私と仲良くなれるし」


 烏三子は動揺した表情を浮かべていて、私と長閑を交互に見て混乱する。


「もうどうすればいいかわからないよっ」と烏三子は拗ねながら言った。


 その瞬間、名案が頭に浮かんできた。


「ね、今決めるより、私の家に来たら? 長閑も天使さんも来てね」

「あの、私は天奈あまなです」

「あ、私は日向です。よろしくね」


 自己紹介は遅すぎたな。初めて天使と出会ったのに、別に興奮してはいない。なんでだろうね。多分、烏三子が堕天使であることに気がついた日から、どんなに不思議なことがあってもおかしくはない。


「誘ってくれてありがとう!」と天使が頭を下げて言った。


 太陽がだんだん沈んで周りが暗くなってきた。私たちは帰り道を歩き始めた。

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