第8話 女子高生対魔法
真剣に睨み合う長閑と烏三子。見上げると烏三子は完全に堕天使に化した。黒く大きな翼が羽ばたいて、目が紅く染まる。
「来るな、悪魔!」と長閑は叫んだ。その声に勇気と不安が入り混じった。
烏三子は返事をせずに一歩近づいた。
「あんたは長閑だね。我が眷属を誘拐するなんて後悔させるよ」
「あたしと日向は友達ですよ。誘拐というより、日向を悪魔から守りたかったんですからここに連れてきました」
「ほう、そういうことか。じゃ、なんで日向は今両脚が縛れてるのだろうか?」
「余計なことを言わないで。では、あたしは退魔を開始します」
「退魔させられるものか! 吾輩はどうしても天国に帰るんだ!」
そして、烏三子は倉庫を出て空を高く飛ぶ。長閑は彼女を地面で追いかける。
私は両脚のロープを全部外して、外へ走り出した。
走りながら空を見上げたけど、もう烏三子を見失ったようだ。前を向くと、長閑が先に全力で走っている。彼女を止めなければならない。
風になびかせる長い黒髪を手で掴んで引っ張る。長閑は悲鳴を上げて倒れた。彼女を何回も殴りたい衝動をこらえて、両手で地面に押し付ける。私たちは当てもなく藻掻いた。
「どういうことですか、日向!?」
「私は烏三子の友達だから。はなから烏三子を手伝ってあげた。烏三子に、天国に帰ってほしいんだわ!」
「そんな堕天使と協力するなんて許せません」
「構わない! 烏三子は私の平凡な人生を面白くさせてくれた。だからお返しに烏三子を手伝わなきゃ!」
長閑は必死に藻掻き続けた。その瞬間、空気が息苦しくなることに気づいた。まるで空が壊れたようだ。
見上げると、遠くに紫色の光線が雲を貫いた。きっと烏三子の魔法だ。長閑を放してそこに向かって走り出した。
ふり向くと長閑は私を追いかけてくる。彼女に捕まらないように歩く速度を上げた。
やっと目的地にたどり着くと、私は息を切らして倒れた。烏三子は魔法陣の真ん中に呪文を唱える。息をついてから、立ち上がって烏三子に一歩近づいた。後ろから長閑の足音が聞こえてくる。
「待って、日向!!」と長閑は叫んだ。
烏三子は聞こえないかのように唱え続ける。ここで長閑を倒さなければならない。
「来るな長閑!邪魔したら後悔させるから」
長閑の手に魔法のようなものが現れた。
「あたしは日向を助けます」
長閑のもとへ真っ直ぐに走った。彼女は手から魔弾を放って、私はギリギリそれをかわす。魔法がまったくわからないので、よりによってエクソシストに挑むのは仇になる気がする。
計画を早く立ててみた。運良くネクタイをまだ持っている。長閑の後ろに立ち止まって早く手をネクタイで縛った。手が動かないと魔法がうまく使えないでしょう。
長閑は必死に縛った手でネクタイを外そうとしたけど、私は彼女を捕まえて地面に押し付けた。
「普通の女子高生なのに意外と上手い!」と烏三子がツッコんだ。
長閑を見下ろすと、制服と髪の毛が泥だらけだ。その哀れな瞳が絶望を映し出した。
「ごめん、日向。全部日向のためでした。でも、あたしが悪かったですね」
「何を言ってるの?」
「お前、この儀式の最後の段階を知ってるんだね」と烏三子は長閑を睨みながら訊いた。
「知っていても言いませんよ。日向だけを手伝うんです」
「日向も知りたいんだよ。早く言って」
「お願いします、長閑!」と私は作り笑いをしながら言った。
「言えません。魔物を祓いそびれたら、命を落とすことになったんです」
私は驚いて長閑を放してしまった。なぜそういうことになったのか?やっぱりエクソシストのことをまったく知らない。
「契約によると、魔物の存在を看過して災害が起こったら、そのエクソシストは亡くなるんです」
「なんで命をかけてるの?契約を結ぶより、破棄してエクソシストにならないほうがよかったんじゃないか?」
「あたしの家族はエクソシストの家系なんですから、あたしは否応なくエクソシストになったんです」
「それじゃ、烏三子が天国に帰ったら長閑は亡くなるんだよね?」
「そういうことです」
「吾輩は災害なんて起こす気はないからいいんじゃない?」
「堕天使が天国に帰ることは、それなりに災害と見なすと思います」
「そうか。ちょっと大変だね。まあ、我が眷属を誘拐したから一応長閑の命はどうでもいいと思うけど」
「亡くなって仕方がないなら、堕天使を助けずに亡くなるほうがマシです」
「お前、頑固だね。じゃ、長閑を魔法陣に連れてこい」
「長閑が魔法陣に入ったらどうなるの?」
「本人から聞いたかったけど、長閑はこの儀式の生贄なんだ」
「やめておこう、烏三子。今でも長閑に酷いことはしたくないんだ」
やっぱりあの占い師の予言は正解だったな。
『吾輩は友達を裏切らなければ、天国に帰れない』
背後に紫色の炎がせり上がる。魔法陣が突然広がって逃げ道を塞いだ。
「ごめん、日向。本当に仕方がないんだ」
私と長閑は強い風に煽られて吹き飛ばされた。膝をついたまま烏三子を見ると、彼女は上を向きながら魔法陣から大きな光線を放つ。
最後に、長閑は私を抱きしめてくれた。彼女を見殺しにするしかなかった。
「待って、烏三子! 長閑を死なさないで!!」と絶望的な声で叫んだ。
烏三子は返事をせずに消え去った。長閑の顔に手を当てると、その肌は雪のように冷たい。もう死んでしまったかな……。
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