第4話 涙雨
ホームルームが始まったら見知らぬ女子高生の存在に気づいた。今日からこの学校に転校したらしい。青空のような瞳をしていて、クラスの中で髪の毛が一番長かった。
「あたしは
席に戻りながら、彼女の後ろ髪が美しくなびいている。見つめざるを得なかった。
「ねえ、なんでここに転校したんだろう?」と烏三子は私の耳に呟いた。
「知らない」と私はそっけなく答えた。
鈴木長閑はどんな人なのかな。このクラスでは堕天使さえもいるので、普通の転校生じゃないかもしれない。とにかく、彼女のことをもっと知りたいから、昼ご飯に誘った。
見慣れた学食の席についた。私の中途半端に用意した弁当に比べて、彼女の方がちゃんと用意したようだ。子供の頃に母の作ってくれた弁当を思い浮かべた。
「あの、なぜあたしを昼ご飯に誘いましたか?」
「転校したばかりだから友達がいないと思ったんだ。鈴木さんと友達になりたいよ」
「ありがとうございます。これからは長閑と呼んでください」
「わかった。私のことも日向と呼んでね」
長閑は優雅に食べ始めた。詳細な指でお箸を使ってご飯を口に運ぶ。私はこれ以上空腹感に耐えられなくて、できるだけ早く食べた。私たちは食べ終えてから立ち上がって学食を出た。歩きながら長閑は私に向かってくる。
「普通に昼ご飯を一人で食べますから楽しかったです」
「うん、これから昼ご飯を一緒に食べようね!」
長閑は返事をせずに歩き続けた。少しそっけなさすぎるんじゃないかと思った。私は黙って長閑のなびいている黒髪をじっと見つめた。
「綺麗」と小声で呟いた。
「何か言いましたか?」
かなり耳が効くね。
「何でもないよ」
その瞬間、烏三子との約束をふと思い出した。
『結構遅くなったから明日はちゃんと説明するよ』
しまった。多分学食の隅で独りで昼食を食べたよね。彼女に謝ればいいでしょう。
「あの、さっき用事を思い出した。明日も一緒に食べようね。じゃ、また明日!」
「あ、そうですか……あたしを誘ってくれてありがとうございます。また明日。」
私は手を振りながら立ち去った。
放課後は烏三子を探し始めた。まだ学校にいるかわからなかったけど、とりあえず校庭の方へ向かって歩いた。
冷たい風の吹き込んできた校庭の方は空っぽだ。周りを見渡すと、一人しか見えなかった。校庭の真ん中にいる姿は、寂しげに立ち尽くす烏三子だ。私は彼女のもとへ走り出した。
「ごめん、烏三子! 約束のことすっかり忘れちゃって……」
烏三子を怒らせちゃったはずなのに、彼女は何気なく肩をすくめてこっちを見た。
「待たせたなぁ、我が眷属」
私は必死に謝り続けた。
「まあ、放課後は手がかりを説明するつもりだったから構わないよ」
安堵の溜息を吐いた。
「ところで、日向は今日何してたの?」
「えーと、鈴木長閑って転校生と一緒に昼ご飯を食べたり散策したりした」
「ふふふ、計画通り! その転校生は最初の手がかりなのよ」
「長閑は手がかりなのか……。普通の女子高生にしか見えないのに」
「実は、長閑は高校生兼エクソシストなんだ。多分罪を犯した悪霊を探して祓おうとしている。堕天使、とか」
「じゃ長閑が烏三子を見つけたら祓おうとするんだ?」
「多分そういうことだ。もし吾輩が祓われたらこの世から消えてしまうよ。とりあえず、時間を稼ぐために長閑と友達になってくれ。お互いの家にでも行ったら楽しいだろう」
「わ、わかった。でも、烏三子はこれから何をするの?」
「残念だけど、これからは一緒にいない方がいい。長閑を扱ってからまた会えるね」
私は悲しく頷いた。数日前に出会ったばかりなのにもう会えないなんて我慢できない。堕天使であっても唯一の友達だ。現実は残酷すぎた。
立ち止まって振り向いた。校庭は風の音しか聞こえないほど静かだ。私たちの髪の毛が風に寂しくなびいていた。
「さらば、我が堕天使」と私は半泣きになりながら言って立ち去った。
家に帰ったら顔を枕に埋めて泣きたい。愛用の寝具に横たわりたい。でもそんなことをしても何も変わらない。これからの日々はきっと嫌だと思った。
長く抑えた涙が零れ出したと同時に、夜雨が降り始めた。
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