第2話


 ランク戦。

 それは、このゲーム───《リフト》のマルチプレイを構成する部分である。

 1シーズン30日で構成され、勝利してランクポイントを貯め、ランクを上げたものには特別な称号が与えられる。

 称号は、上位からプラチナ、ゴールド、シルバーの順で決まっている。

「さて、どうなってんのかなぁ。」

 俺は早速ランク戦を始めてみることにした。

 今回やるのは12vs12のスモールマッチ。

 勝利条件は敵陣営の『フラッグ』の奪取だ。

「…。」

 ───おかしい。

 表示されるメンバーの中に、炎属性が俺しかいない。

「ここまでだっていうのか?クソ調整の影響は───。」


 景色が切り替わる。

 ランク戦用フィールド───《マグナロス平野》だ。

 向かい合う二つの砦が特徴的だ。

 俺たちのやることは、相手の砦からフラッグを奪取することだ。

 俺たち12人は特に相談もなく、敵のフラッグ奪取のため動き出す。


 俺はどうするかと言えば、フラッグ奪取は味方に任せ、自分の陣営のフラッグを守ることに徹することにした。

「よし、やるぞ。」


 スキル《属性弾》。

 全ての属性共通のスキルであり、打撃を伴う遠距離攻撃が可能だ。

 こちらに向かう敵───3人確認。

「徒党を組んでやってくるのは良いが、狙いやすいマトだぞ。」

 俺は炎属性の《属性弾》を発射する。

 炎弾は指先から放たれて、ぐんぐんと伸びて3人組に着弾する───はずだった。

「───。」

 命中する直前に、《属性弾》がかき切れた。

 最大射程が下方されていたことを、俺は今更思い出す。

 咄嗟に身体を翻し、近くにあった瓦礫へと身を隠す俺。

「狙え!敵だ!」

 風属性の《属性弾》が、先ほどまで俺がいた場所を通り抜ける。

「どうやら、今のニーズは風属性みたいだな…。」

 独りごちるが、どうするか…。

 始めの《属性弾》が当たらなかった以上、勝ち目は薄い。

 しかし、敵は風属性───厄介なことに、風属性使いは移動能力を大幅に強化できる特性を持っている。

 逃げる事はできないだろう。

「仕方ない…。《纏う》か。」



 《リフト》のプレイヤーはランク戦開始時に、習得しているスキルの中から、3つのスキルのみを選択して使用することができる。

 《属性弾》のようなスキルは、こちらのスキルの中に入る。

 しかし、プレイヤーにはそれら以外に一つだけ、状況を覆すためのスキルが贈与されている。

 ───風の属性弾は俺の身体ごと、俺が隠れていた瓦礫を吹き飛ばした。


「───《炎纏》。」


 《属性纏い》のスキル。

 空中で一回転して着地。

 肩にかけている大剣に手をかける。

「皆殺しだ。」

 身体が燃え盛る。

「纏っているのか…!?」

 大剣を引き抜けば、剣に炎が宿る。

 大剣を振り抜けば、地を炎が覆う。

 炎の斬撃は、敵が放った風の《属性弾》を見事に打ち消した。

「炎使いだと!?」

 風属性使いのグループは驚愕する。

「そんなにおかしいか?」

「いや、楽で良い!」

 3人組は分散し、それぞれ《属性纏い》を起動した。

「《風纏》!」

 敵は革鎧にナイフ使いの3人組だ。

 さらに、鉄の盾を構えてこちらに接近する。炎対策は万全と言ったところだろう。

 1人は右、1人は左、1人は正面───なるほど。

 狙いはわかった。全方位攻撃だな。

「《エア・クロウ》!」

 敵が放った風の刃が三方向から俺を切り裂こうとする。


「《ボルケーノ》。」

 俺の体から、噴火の如く炎が噴き出す。

 《ボルケーノ》は狙った方向に向けて炎を放射するスキル。

 俺は───自身の下の、地面に向けて炎を放射した。

 《ボルケーノ》の反動を利用して、空中へと逃れる。

「避けられた!?」

「盾は良いが、予習が不十分のようだな。」

 俺は空中で3人組を見下ろす。

「《属性弾》。」

 俺は属性弾を可能な限り彼らへ向けて撃ち込む。

 しかし、敵は3人だ。風属性の《属性纏い》の効果によって移動速度が上がっている。

 連射した甲斐あって、1人には当たったが他の2人は無傷である。

「《エア・クロウ》!」


 飛ぶ斬撃が迫ってきた。

 ───なるほど…。

 俺は胴を真っ二つに切り裂かれ、難なく死亡した。


「ふざけてんじゃねぇぞクソ炎使い。」

 俺はリスポーン先にてしこたま怒られていた。

 このゲームは死亡した際に復活するのだが、ランク戦の場合はデスペナルティがあって60秒間復帰できない。

「単独で死ぬぐらいなら団体行動しろよ。」

「ごめんなさい…。」

 同じデスペナの檻の中にいる女の子に怒られる俺。

「あんたのせいで昇格戦負けしたら一生恨むからな。」

「…今はシーズン外だけど、プラチナに上がるつもりなのか?」


 説明すると、シーズン終了後から7日間は調整期間となり、ランク戦の仕様は変更される。

 具体的には、負けた時のランク下降が無くなる。

「とーぜん!シーズンが始まる時にプラチナなら、来季のシーズンはゴールドで始められるんだからね!」

 彼女は来季のシーズンを見据えて、ランクを上げようとしているらしい。

「来季こそは"順位入り"して見せるんだから!じゃあね、炎使い!」

 女の子はデスペナが解けたらしく、戦場に戻っていく。


「…"順位入り"、か。」


 "順位入り"とは、この《リフト》のランク戦において、ランクポイント取得量上位50000位以内に入ったものの称号である。

 その者達はプラチナである事以外にも、特別な二つ名を用意される。

 ───この《リフト》において、二つ名を持つことは最も名誉な事なのだ。


「…マサキ。」


 ランキング39788位。

 《火炎の魔導士》マサキ。


「お前は…うちのギルドの希望だったのに。」


 デスペナが終わる。

 顔を上げなければ。

「…。」


 前線に復帰してみれば、状況は俺の陣営の圧倒的有利であった。

 9対6。

 敵の数は半数に減っている。

 どうやら、うちの雷属性使いが相当やっている。

 雷属性は《属性纏い》を使えば、自身の魔力が尽きるまで、視界に入れた攻撃を自動で回避できる。

 敵に回せば、この上なく厄介な能力だ。

「フラッグは?」

「もう取った。撤退戦だよ。」

 さっきの女の子が護衛に回っているようだった。

「カバーに回る。」


 その後、難なくフラッグを取得できた。

 俺たちの勝利だ。

「お疲れ様でした。」

「お疲れ様でした〜。」

 味方に挨拶して、元の地点へと戻る。


「…はぁ。」

 俺はため息をついた。

 俺は───下手だ。

 なぜ、3人相手に1人で向かって行ったのか。

「なんとか勝ててよかったな…。」

 だが、今後は頑張ろうと思った。

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バランス調整のため炎属性は最弱となりました。【玄人気取りのエゴイスト漫遊記】 松田勝平 @abcert

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