バランス調整のため炎属性は最弱となりました。【玄人気取りのエゴイスト漫遊記】

松田勝平

第1話

 VRゲーム───現在では拡張現実とされるVR技術が、ソフトメーカーにより洗練され、ゲームの1ジャンルとなった未来。


 現代っ子な松坂タケシは一つのゲームに惹きつけられ、手に取った。


 名を、《リフト》


 プレイ人口1500万人を誇る、マルチプレイ対応バトルシミュレーションゲームである。



 初めてそのゲームのPVを見た時に、確信したんだ。

 並いる対戦型ソシャゲ、ビデオゲーム…それらとは違うって。

 このゲームこそは───バランス調整を間違えないだろう、と。

 だけど───このザマはなんだ。


 【炎属性の状態異常火傷の持続発生ダメージの威力を20%下方修正】


 【炎属性の《属性弾》の消費MPを10%増加】


 【炎属性の《属性弾》の最大射程を5%下方】


 【炎属性の《属性スキル》の消費MPを一律10%増加】


 シーズン終了後に行われるバランス調整。

 それがあまりにも───むごい。

 先にあげた3つの調整以外にも、ずらりと下方内容が並んでいる。

「俺たち炎属性が何をしたって言うんだ…。」

 ゲーム内のウィンドウ表示を切り、俺はギルドへと赴く。


 ギルドには同志である炎属性使い達が集まっていた。

「…お。アーサー。」

 友人である『マサキ』だ。

 炎属性の魔法使いスタイルである彼は、今回のバランス調整に大きく失望したようだった。

「マサキ…。まさかこんなことになるとはな。クソ調整ここに極まれりだ。」

 俺は彼の対面の席に座った。

「…ランク戦には行ったか?」

 マサキは浮かない表情をして、俺にそう聞いた。

「いや。まだだ。仕事帰りでな。」

「そうか。気をつけた方がいい。…いや、そもそも、炎属性使いなんて…やめた方がいいんだよ…。」

「マサキ…。何を言ってるんだ?」

 マサキは自身のプレイスタイルに誇りを持っていた。

 そんな彼が、ここまで打ちのめされるなんて…。

「《火傷》のダメージの下方は知ってるだろ。」

「ああ…。それか?」

「あれが思った以上に辛い。水属性相手じゃなくても、キルに7秒かかるようになっちまった。」

「…。じゃあ、もう…。」

「ああ。炎属性のアイデンティティは失われたんだ。」

 ここで軽く補足をしておく。

 この《リフト》、炎、水、風、木、雷、氷の六属性のプレイスタイルが存在しており、火属性は水属性にやられやすいものの、《火傷》による圧倒的なキルペースで敵に圧力をかけていく役割だった。

「俺たち炎属性の射程は短い。その中で7秒なんざ…他の属性使いにとっちゃ、目の前にカモが出てきたようなもんだ。」

「俺たちはもう終わりなんだよ…。アーサー。」

「マサキ…。」

「足は遅い、回避はない、ましてや、アーマーもない…。はは。ははは。」

 マサキは席を立った。

「おい!マサキ。どこにいくんだ!」

「転向する。炎属性ギルドになんざいられねぇよ。」

 マサキはギルドの出口に向かっていく。

「覚えとけ。アーサー…。ゲームってのは、強い技振ってる方が楽しいんだよ…!」

「…。」

 …マサキは昔、言っていた。


『俺は炎属性であることに誇りを持ってる。』

『炎には愛着があるんだ。何があったって、転向はしねぇよ。」


 遠ざかる、マサキの足音。


「マサキ…!」

「マサキーーーーッ!!!!」


 マサキの後を追おうとしたが、マサキはワープ機能を使ったようで、すでにそこに姿はなかった。

 俺は力無く座り込む。

 なぜ…なぜマサキがあんな思いをしなければならないのか。

 マサキ…。

「…クソ運営が…。」

「決めたぞ…!俺は、やめねぇ…。炎属性をやめねぇ…!」

 俺の頬に一筋の涙が伝う。

「マサキの分だけ…!俺が…!俺が燃やしてやる…!」

 怒りのままに地面を叩いて、前を見る。

 ちっぽけな火種が、燃えあがろうとしていた───。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る