第31話
「マギー」
マギーに覚えの無い声が、漸く耳に届いた。
か細くも、弱々しい声。街の住民達の目線が、マギーの近くに集まっていた。
触りはしない。マギーがハッシュの腕の中から降ろされても尚、誰も近付けなかった。虚な目の奥底には憎悪がある。同時に恐怖も。
重苦しい視線がマギーに纏わりついていたが、街人達はマギーに視線を送るだけに留まっていた。
まるで、マギーが元凶なのだと告げる様に。
夢の中で、自分がスケッチブックに描いた
だからと言って、記憶の中の自分が何かをしたという事実だけで、マギーは街人達の視線を受け止める事は出来ない。
視線を逸らし、自然とハッシュに寄りかかる形で、ハッシュの袖口を摘む。
ハッシュは決してその手を振り払いはしない。そっと移動すると、街人の視線を遮っていた。
「おい、メレディス。こんな大袈裟な事しておいて、これからどうするつもりだ」
少しばかり距離の空いていたメレディスに向かって、ハッシュは声を上げる。
「いやぁ、うまくいき過ぎちゃって」
それまで、カートや他の仲間らしき人物達と話し込んでいたメレディスは、ハッシュに話しかけられた事でコソコソと隠れるマギーに目線を落とした。
メレディスは、マギーに懐中時計を見る様に自らの胸元をトントンと指差す。マギーは、慌てて時計を覗くと、まだ針は六時を指してはいない。
時間をずらして態と鐘の音を鳴らしたんだよねぇ、爆音で。とニコニコと上機嫌だ。
仕込みは、ハッシュがマギーを見つけたとメレディスに報告した時から始まっていた。
その上機嫌の笑顔は、ハッシュに近づき、マギーを引っ張り出す様に抱き上げると、わざとらしく街人に見せつける。
「メレディス!?」
戸惑うマギーとハッシュを他所に、メレディスの口に端が吊り上がり牙がしっかりと見える悪いオオカミさながらの嫌な笑みを浮かべた。
「こいつらはさ、君の事恨んでるんだってさ」
さもありなんと、愉楽を込めた瞳がニヤッとマギーを捉える。
「皆、帰りたがってる。この連中は、君の事知ってるよ。今までは、
「おいっ!」
ハッシュがメレディスの口を塞ごうとするが、背後から幾人もの街の住人達がハッシュを取り押さえていた。「離せっ!」と乱暴に力を振るおうとするも、流石に数の多さに圧倒される。
「ハッシュもさ、巻き込まれたんでしょ?別に庇う必要は無いんじゃない?」
街の住人達の目の色が変わっていた。虚な目から、その奥底に溜まっていた憎悪が滲み出る。その対象は、勿論、マギーだ。
「メレディス……私……」
「ねえ、どうする?ハッシュは助けてくれないよ?自力で逃げなきゃ」
「脅したって、何もならねぇ!メレディス止めろ!!」
焦るハッシュの力は凄まじかった。野生の獣を思わせる獰猛さで前に出ようとするが、止める側も必死だ。
見た目がどれだけ変わろうと、中身が人であると、良く知っているから、些細な違い程度なのだろう。
「ほら、無理そう」
マギーは怯え、周りは混乱にも近い狂気が渦巻く中、メレディスがただ一人、愉し気に嗤う。
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