第28話

 大時計に近づくと、カチリ、カチリと歯車が動く音が鳴る。その音と共に分針が丁度六時を指した。 

  

 その瞬間、そこかしこから、ゴーン――と鈍い鐘の音が鳴る。四方に向いた時計と同じ方向、周りを囲む建物の上には大きな鐘が、大きな歯車が回るとともに揺れ始め音を鳴らしたのだ。

 

 重苦しい音を鳴らして、街が動き始めた。


 耳の中が、鐘の音でいっぱいになりそうだった。マギーは堪らず耳を塞いでいたが、ハッシュもメレディスもカートも平然と時計に近づく。


 そんな中、空がそれまで以上に騒がしくなった。鴉達が、鐘の音と共に、野太くガアガアと呻き声を上げ始めたのだ。

 それまで、軍列を組んでいた鴉達は乱れ、荒れ狂う様に空を舞っていた。


 マギーは耳を塞ぎながらも、空を呆然と見上げるなか、メレディスは時計の下部についていた取手に手を掛け、勢い良く開いた。

 そこに、後から辿り着いたカートが星をずた袋を逆さまに、ゴロゴロと入れていく。キラキラと光る星達が、時計の中で、暗闇を照らす。


 メレディスは、星の輝きを確認して、扉を閉めると星を閉じ込めた。

 そして、星を取り込んだ時計が、少しづつ光り始めたのだ。


 最初は鈍く、そしてほんのりと明るくなる。段々と輝きは増し、その明るさは、再び星や月の輝き以上をマギーに思い出させた。


 ――太陽みたい


 ノアが乗ってきた箒星にも勝るとも劣らない輝きになった頃、鴉達の呻き声が、叫びに変わった。


「ギャアァァァ!!!」


 烏合の衆に成り果てた鴉達は、叫び声を上げ、一羽、また一羽と声を失くした者からポトリ、ポトリと力無く地に落ちていった。


 鐘も鳴り止み、鴉の鳴き声も消えたそこに残ったのは、太陽程に眩しい光と、マギー達。そして、事をひっそりと陰ながら見届けていた、街人達だった。


 鴉の羽ばたきで、家々に隠れ息を潜めていた者達も、騒ぎが静まった事で姿を現したのだ。

 そんな中、誰かが言った。


「太陽だ……」


 その懐かしい眩しさに、その呟きは広がっていく。

 ゾロゾロと、雑多な声が広がりの中には、瞳は潤み揺れ、想い馳せる者、啜り泣く者すらあった。

 その声は震えた声で、帰りたい、と泣いている。


 そして、その中の一人がマギーを視界に捉えて言った。


「マギー、お願いだから俺たちを解放してくれ」

「帰りたいんだ」

「なあ、もう良いだろう?」


 姿形が様々な動物を模した人々は、マギーに擦り寄る様に近づいたが、マギーの耳には声は届いていない。

 マギーの視線は、じっと太陽の輝きを見つめたまま離れなかった。

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