第27話
マギーは、ハッシュに抱き上げられながら外に出た。
どうせ怖くて降りられないだろ?と言う。
既に夜が始まりつつある中で、移動を開始する事態にも驚いたが、一歩外を出ると、マギーは空の黒さに息を呑んだ。
バサバサと空を鴉が埋め尽くす。
カアカアと、丁度メレディスの家の真上を中心として、ぐるぐる旋回を続けていた。
その中で、一羽がゆっくりとマギー達に近づき、近くの建物で羽を休める。
「ハッシュ、以前の事を懲りていないのか」
そうすると、次々と鴉達が喋り始めた。
「間抜けな、ハッシュ。本当の姿を奪われた」
「大事な記憶を奪われた」
「間抜けな魔女共、魔術の使い方も忘れちまった」
「帰りたくとも、帰れない」
カアカアと、更に湧き上がる笑いで空が埋まる。
「クソ鴉ども。よくまあ、集まったもんだ」
マギーは、ハッシュが汚い言葉を発する度に、ハッシュをじっと見る。何で、わざわざ、そんな言葉を選ぶのか。と言いたいが、そこに憎しみも篭っっているものだから、下手に口に出来ない。
「まあまあ、あいつらは所詮、下っ端なんだから。悪態吐いたって無駄ってものよ」
さて、とメレディスは肩に手を当て、ぐるりと回す。
気合いを入れているのか、ふう、と息を吐く。その瞬間、
「走るぞ!」
メレディスは足に力を入れ、そのまま階段を蹴った。
此処は、五階。
そう、五階。
その五階から飛び降りたメレディスを追う様に、ハッシュと近くに居たワニも動いた。
「口閉じてて、目瞑ってろ」
マギーは一瞬で顔が青ざめた。無理もない、メレディスが目の前で飛び降りたのだ。ハッシュが何も言わなくとも、これから何をするかは予測できる。
マギーは、ハッシュにしがみついて目と口をギュムッと閉じた。
ふわりと浮く。かと思うと、ほんの数秒後
―ドシンッ
と大きな音を立てて、マギーにも着地衝撃が伝わる。そのまま、上下に揺れるものだから、マギーは目を開けた。
メレディスを先頭に、一行は街の中心街へと向かって走る。
細い道を抜け、大通りへと出ると待ち構えていたと言わんばかりの鴉達が一気に滑空し始めたのだ。
普段空を舞っているだけなのに、一直線で嘴を向けて鴉の群勢が襲ってくる姿は、まるで一体の怪物の様。
メレディスがチラリと背後を振り返りながら声を荒げた。
「カート!用意は!?」
「出来てる!」
それに返事をしたのは、メレディスとハッシュに遅れを取らない様に必死に走るワニだ。ぜえぜえと大きな口が開きっぱなしになっており、更には手荷物もあって走りにくそうだ。それでもワニは、鴉達に追いつかれまいと短い後ろ足を必死に動かしていた。
マギーは再び前を見る。既に夜が始まりつつあるからか、道はがらんと人通りは無い。
その先に、開けた場所が現れた。
円形状に開かれたそこを、鉄色の建物がぐるりと囲い、四方への道を作る。
その中央に、大きな、機械仕掛けの時計が待ち構えていた。
黒く膨らんだ、半身とも言える下部の構造は、パイプが張り巡らされて、そこかしこの建物へとつながっている。上部だけがほっそりと、何かのタワーを思い出す。その先っちょに、四方に向けた時計が飾り物の様に取り付けられていた。
その大時計は、街の明かりに照らされて鉄色よりもずっと黒く鈍く光り、街の中心で静かに佇んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます