第26話
「……ハッシュは、何で
マギーの問いに、ハッシュは頭の後ろを抑えながら目を逸らした。
どうしたものか、と悩んでいる様にも見えるが……
「俺は――」
と、語り始めた矢先だった。
カンカンカン――、と階段を駆け上がる金属音が激しく家の中まで鳴った。五階まで止まる事なく駆け上がるその音は、戸口の前で止まると同時に扉を勢いよく開いた。
「メレディス!来たぞ!!」
ワニの頭が、扉の隙から飛び出たかと思えば、若い男の声で慌てている。大きく開いた口が、ずんずんと慣れた調子で部屋の中へと入ってきた。ハッシュと同じで、散らかっている紙など気にも留めていないのだろう。
「来たって、今何時?」
メレディスは、部屋の壁に掛かった鳩時計を見る。針は、五時半。星が出始める頃あいだ。
「そこら中で鴉共が監視してる。どうする」
じゃあ、とメレディスは立ち上がる。
「マギー、残念だけど、話は此処までだ」
ニヤッと口の端を吊り上げて、急足で寝室に向かう。何が始まるのか見当もつかないマギーだけが、きょろきょろと頭を動かして、戸惑いを隠せない。
そうこうしている間に、メレディスが大きなズタ袋を肩に担いで戻ってきた。
仄かに発光して、ズタ袋自体が光っている様にも見える。それをテーブルの上に、どんと置くと、ごろごろと中で動く音がした。
「これって、星?」
「そうだよ。ずっとさ、集めてたんだよね」
「そんな所に入れていたら……」
「光が逃げるね。大丈夫、今日の為に集めたものだから」
メレディスが一個だけ取り出して、状態を確認しているのかまじまじと眺めると、問題なさそうだ、と言ってズタ袋に戻し、ズタ袋をワニに渡した。
「あいつら、この街がはみ出し者と思って侮ってるんだ。徹底的にやってやれ」
メレディスの目に、狂気が満ちる。御伽噺とはかけ離れた……いや、悪い狼さながらのその姿に、マギーは後ずさる。
何だったか、狼が女の子を食べる為に待ち伏せする話。そんな、童話の狂気を思い出す。
マギーは、気づいた。今まで、いかに自分が、守られていたかを。
自分が生きていた範疇こそが、御伽噺であったのだと。
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