第25話
◆
♪〜
オルゴールの音が、マギーの耳に届く。一音、一音の音の粒が、キラキラと星の瞬きを奏でる様に。
そのオルゴールの音に合わせて、楽しげに鼻歌を歌う少女は腕にお気に入りの猫の人形を抱えながら、暖炉の前でスケッチブックとクレヨンを散らかして落書きに勤しんでいた。
暖炉の前に敷いてあるカーペットは、フワフワと動物の毛を思わせるが、偽物なのだと誰かが言った。
寝っ転がって、足をゆらゆらと交互に揺らしながら描くのは、箒に乗った少女自身だ。
『マギー、魔女は箒になんての乗らないのよ』
同じく暖炉の前でロッキングチェアを揺らしながら、誰かが言った。少女が、そちらに向けて顔を上げると、少女に似た赤髪の女性が、暖炉の灯りでオレンジ色に染まった部屋の中で、ゆったりと微笑んでいる。
『じゃあ、どうやって飛ぶの?』
『変身するの。鴉か、蝙蝠』
『えー、どっちも嫌』
『じゃあ、梟は?』
『んー、やっぱり箒が良い』
そう言って、少女は再びスケッチブックに目を戻すと、続きを描き始めた。
満月を描いて、星をこれでもかと言うくらいに描いて。あと、流れ星も。
『マギーは魔女になりたいの?』
『うん、怖い魔女じゃないよ。楽しいの。お空を飛んで、色んなところに行くの』
『……そう』
女性の声が、少しばかり小さくなった。僅かな変化に少女は、再び女性を見上げるも、その顔が悲しげに目を細めている。
『お母さん?』
少女は、母と呼んだその人の表情が只事では無いと膝に擦り寄った。
『マーガレット』
不安げに膝に縋りつき、女性のスカートを握り締める。女性は、少女の頬を両手で包み込んだ。幼児らしく、赤く染まった頬に、暖炉の熱で温まった身体。
愛しい子、と女性は呟く。
『マギー、忘れないで。魔女に奇跡は起こせない。奇跡を起こせるのは、夢の中だけ』
――夢の中では、全てが貴女の思いのままよ
◆
記憶が、はっきりとマギーの脳裏に宿った瞬間だった。
少女……マギーは、はっきりと女性を『お母さん』
と呼んだのだ。
頭を分厚い本で叩かれた様な衝撃に、マギーは目を見開いたまま固まってしまった。
「マギー?」
メレディスは、思わず前のめりにマギーに手を伸ばそうとするも、それよりも早く、ハッシュがマギーの背を撫でた。
「大丈夫か?」
マギーの目線は何も捉えていない。
「マギー」
ハッシュは、何度か名前を呼ぶ。最初の荒々しい印象とは違い、背中を撫ぜる手は温かい。ただ、記憶の中の手とは違って、大きくて慣れない感触もある。多分、肉球だろう。
マギーは、ゆっくり背を撫でるハッシュを見上げた。
荒っぽい表情が地顔なのか、優しさとは程遠い。
此処から出たいから、優しくしているのだろうか。それとも――
「……ハッシュは、何で
マギーに沸いた疑問だった。
ノアにしてもそうだが、マギーはそれまで言われるがままに行動していた。言われるがままを信じて、鵜呑みにしてたからこそ、一番の問題を見落としている。
此処は、マギーの夢だ。
そもそも、どうやって入ったのか。何が目的で、此処にいるのか。
記憶が戻ると共に、思考が目覚め始めていた。
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