第24話
「この世界は、君そのものだ」
メレディスの目は真剣だった。獣同然に鋭い瞳は、強かにマギーを捉える。
「ねえ、魔女って知ってる?」
獲物を見る目は変わらない。だが、メレディスの言葉はマギーにとって現実味から程遠い物だった。
魔女、という言葉で想像したのは、箒に乗ったシワシワのおばあさん。とんがり帽子をかぶって、黒い服。黒猫か鴉を引き連れていたら、もっとそれらしい。
だが、マギーが想像したのは、あくまで絵本の中の魔女だ。
『コラプスの魔女』に出てくる魔女が正にそれだ。子供をネズミに変えて攫ってしまうのだ。最後は、唯一魔女の魔法が効かなかった子供に騙されて、大鍋に落とされて死んでしまう、と言うお話だ。
最近読んだばかりとあって、マギーにとって魔女は良い印象ではないからか、顰めた顔をメレディスに向けた。
「絵本に出て来る、悪い奴?」
「まあ、悪い奴も中にはいるね」
マギーの回答が思ったものと違ったのか、メレディスは頬を人差し指で掻きながら苦笑いで返す。
「おい、記憶がないんだ。急に飲み込めるか」
「何の説明もしてないの?」
「魔法の話はした」
「魔法って、御伽話じゃないんだから」
いや、御伽噺みたいな夢の中にはいるんだけど、と呟きながらメレディスは項垂れてしまった。
机に突っ伏してしまったメレディスを前に、マギーは困惑を浮かべながらハッシュに助けを求めた。
「マギー、記憶を思い出そうとした切っ掛けは何だった?」
戸惑うマギーに対して、ハッシュが口にした。
「ノアが、ここは夢だって……」
「そういや、ノアがどうとかって言ってたな」
目覚めてすぐに、マギーがノアの居所を訪ねた事を思い出すも、重要でないと聞き流していたのだ。
メレディスも興味を持ったのか、顔を上げ期待の眼差しを向けていた。
「ノアって?」
「……箒星と一緒に落ちてきた男の子」
箒星?一瞬、メレディスの頭の上には疑問符が浮かんだ事だろう。だが、此処は夢なのだ。そう言った事も、ある筈。と自分を納得させると、テーブルを挟んで前のめりにマギーへと詰め寄った。
「今、何処にいるの?」
「あ……その」
何処、マギーは答えが見つからない。ノアは、自分は死なない、大丈夫と言ったが、しっかりと、
「消えちまったんだとよ」
変わりにハッシュが答えた。
「ノア……大きなハサミで首を……でも、ノアは死なないって」
マギーは思わず首に手が伸びる。それが示すものは、二人にだって想像はついたのか、ハッシュとメレディスは目線を交わすと、再びマギーを見た。
「マギー、予想が正しければ、そいつって人の姿をしてた?」
「……うん、人の子」
「じゃあ、そいつ、死んでない。目覚めたんだ」
「どうして分かるの?」
「恐らくだけど、私とハッシュと同じなのよ。多分、死ぬ事がスイッチだったんじゃないかしら」
スイッチ?マギーはその真意が見えず、首を傾げる。
「夢から目を覚ます為のスイッチがあるの。私も、ハッシュも無くしちゃったけどね……」
「もしかして、私も?」
漸く話が進んだと、メレディスがにっこりと笑った。
「マギー。その子、多分魔女ね」
「男の子なのに?」
「他に言葉がないから、男も女も魔女。私も、ハッシュも」
マギーは、二人を見比べる。そこには魔女とは程遠い姿のライオンとオオカミがいるだけだ。
「マギー、あなたも魔女なの」
メレディスの言葉は、マギーの中で、大きな鐘の音の中で打ち付けられている様に、鳴り響いた。
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