第18話
◆
真っ暗闇で、何も無い。これはいつもの夢?
私、いつの間に眠ったの?
ねえ、ノア。
あれが夢だというのなら、
私は、どこへ行けば良いの?
〜♪
また、音楽が聞こえる。
今日は、誰かの鼻歌みたい。
柔らかくて、優しい子守唄。
あの絵本を読んでいた声に似てる。
あなたが、お母さんなの?
ねえ、ノア。
これも、夢なの?
◆
マギーの耳に、パチパチと暖炉の薪が燃える音が響いた。耳慣れた音の方へと、ゆっくりと顔を向ける。
ぼんやりとした視界がゆらゆら揺れるオレンジ色を映し、なんとなく
だが、徐々に視界がはっきりしだすと、違和感に気づく。
眠っていたのは、マギーのベッド似た感触だったが、ニルと暮らす家よりも大きな部屋だ。
部屋の大きさだけでなく、テーブルや椅子、ベッドもマギーには大き過ぎるサイズばかり。
マギーは、訳が分からず、あちこち目をやっては戸惑いを隠せなかった。
そうしていると、戸口がガチャリと音を立てた。
のそりのそりと、大きなライオンがバスケットを抱えて入ってきたのだ。
先のフサフサとした尻尾が揺れ、マギーは思わず見惚れるも、ゆっくりとマギーを向いて目が合ってしまい、慌てて布団に顔を隠していた。
「目が覚めたのか、気分はどうだ」
ライオンの低い声は、落ち着いた口調で冷淡にも聞こえる。
バスケットをテーブルの上に置くと、ライオンはそのまま椅子に座って、マギーを見た。その目つきの悪さと言ったら。
マギーは睨まれている気がして、布団の隙間からライオンを警戒しながらも、目が離せなかった。
「あの、あなた誰?」
「助けてやったんだ、礼ぐらい言ったらどうだ」
あ、と思わずマギーは慌てて布団から顔を出しては、頭を下げた。
「ありがとうございます。あの、マギーと言います」
「知ってる」
マギーは首を傾げた。ライオンの知り合いは、いない。そんなマギーの疑問を見透かしてか、ライオンは何事もなく答えた。
「誰でもお前を知ってる。なんたって、この世界の主だ」
ここは、夢だ。そう言ったノアの言葉が浮かんだ。
「この世界は、私の夢だから?」
「なんだ、遂にそこまで辿り着いたのか」
「どう言う意味?」
「俺は、前に一度会ってる。此処から出る協力をしたんだがな、邪魔されちまった」
お陰で、ここから出られなくなっちまった、とライオンは呟く。それは、ノアの『外から来た』という言葉を連想させた。
「ねえ、ノアの事知ってる?」
「知らねえな、今回の協力者はそいつか?俺がお前を見つけた時は、一人で倒れてたんだ。他に乗客の姿も無かったよ」
ライオンは、フラムにたまたま星を拾いに行った帰り、汽車の中で倒れているマギーを見つけたのだと言った。
「……ねえ、ライオンさん」
「俺は、ハッシュだ。それも忘れちまったんだな」
あの、クソ猫とハッシュと名乗ったライオンは悪態を吐く。その口ぶりと共に、本当に忌々しいものでも思い出しているかの様に目まで鋭くなった。
「猫?」
「ニルとか言ったか。あの人形だよ」
マギーの心臓が、大きく脈打った。
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