第14話

 〜♪

  

 また、真っ暗な夢。

 ノアは、夜の世界が夢って言ってた。だったら、此処は何?

 ここの方がよっぽど夢の中みたい。

 何も思い通りにならなくて、本当に私がここにいるかどうかも分からない。

 でもね、怖くはないの。

 ただ、退屈なだけ。 

 今日も音楽が聴こえる。これも、聞いたことがある……確か……

  

 くるみ割り人形


 どんな、お話だったかな。思い出せない。



 ◆



 ランタンをもう一つ用意しよう。

 そう言ったのは、ソファーで寛いでいたニルだった。

 夜の国では、灯は必須だ。空のランタンなら売っているけれど、中身の星となると市場で買うかどうか悩みどころだ。

 紛い物を世に出す者はいないが、その星をいつ拾ってきたかは教えてくれない。値下げの交渉もしてくれないし、星を売る店は少々信用ならない、とニルまで愚痴を溢す程だ。


「また、フラムに行かないとね」


 前に、星を売っている店主のキツネとニルは、一悶着起こしかけているのだ。だから、あの店で買い物はしない。

 暖炉の前に転がって、スケッチブックを広げるマギーは大きく手を挙げて私が行くと主張した。


「じゃあ、あたしがノアと行ってくるよ」


 隣で、マギーの落書きを眺めていたノアがキョトンとするも、じゃあ行くと、ノアもつられて手を上げた。

 

「二人じゃ危ない。僕も行くよ」


 糸が高く売れたから余裕がある、とニルは言うが、それでも三人になった分、余裕は無い筈だ。


「何で?汽車の乗り方なら覚えたよ?」


 ニルは、マギーとノアを見比べた。腕を組み、じとっと見つめて唸り声を上げる。


「本当に大丈夫?」

「大丈夫。湖だって、一本道だったじゃない」

「僕も一度通ったから覚えているよ」


 マギーは、ノアの言葉にほらっ、と何とかニルを説得しようと必死だ。そんなマギーの姿に諦めたのはニルだった。


「わかったよ。二人で行っておいで。その代わり出発は朝、昼過ぎには戻って来るように。いいね?」


 子供に言い聞かせる大人の様に、ニルはこれでもかというくらいにしつこく、しつこく、マギーににじり寄る。

 本当は心配なんだからね、と耳を折り曲げ、尻尾を垂れ下げて失念の様子すら見える。


「お使いぐらいできなきゃ」


 そんな沈んでいるニルと打って変わって、明るい調子を続けるマギー。

 いつも通りにも、空元気にも見える姿だが、ニルは横目でノアを見た。ニコニコとマギーを捉える瞳が何かを企んでいる様に見えて仕方がない。


「ノア、マギーに全部任せると心配だから頼むよ」

「うん、大丈夫」


 そう言って、ノアはニルに向かってニコリと笑った。

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