第13話
「此処が、夢?」
マギーは目を見開き、ノアを見た。ノアの顔は落ち着いていて、とても嘘をついている顔には見えなかった。
ノアはマギーが蹲るベッドの端に腰掛けると、優しく微笑んだ。
「そう、夢。ここは、マギーの夢だよ」
マギーから戸惑いは消えるどころか増すばかりだった。それもその筈、はっきりと認識している世界が夢などと言われて信じられるだろうか。
「……もし、ここがノアの言う夢なら、覚める方法があるの?」
「その予定だったけど、君は難しそうだ」
「それって……」
どういう事?マギーは生まれ続ける困惑と疑問を全て消し去りたかった。そのまま言葉を続ける先にある答えに辿り着こうとした。
けれども、事はそう簡単にはいかないものだ。
「何してるの?戻って来ないから心配になったんだけど……二人してサボり?」
突如降り注いだ声にマギーの肩がびくりと跳ねた。気付けば、家の扉が開け放たれて、そこにはニルの姿がある。
ノアの陰からチラリと覗くその姿、その声色、全てがいつも通りの、ニルの姿だ。
「どうしたの?二人で僕がいない間に悪巧みの計画でもしていた?」
ニルは、ランタンを壁にかけると、マギーに近づいた。
「疲れたなら、今日は此処までにするかい?」
「そうみたいだ。綿帽子は布に包んでおけば良いかな」
「いや、取ってきた分は今日処理しないと、萎れて良い糸にならないんだ」
マギーの代わりに返事をするノアは、平然とニルの話に頷いていた。何事も無い。そう思わせようとしているのか、ニルには何の疑惑も見えなかった。まあ、元よりニルの姿はぬいぐるみだ。その表情がはっきりと変化する事はなく、何かしらの差異があるとすれば、その声だろうか。
「マギー、どうしたんだい?」
ボーッと二人を見つめていたからだろうか、マギーはニルの声がいつも通りで安心していた。怖くはない。でも、気づいた恐怖は抱えたままで、体は強ばっている。
「あ、ごめん。直ぐにやるね」
「僕がやるよ。やり方を教えて」
ノアはマギーを落ち着かせる為か、にっこりと微笑んで、他ごとに注意を向けようとしている。マギーも、何とかビクビクと跳ねる心臓を落ち着かせる為に、ベッドを降りると糸車の前に座った。
「えっとね、難しくはないの」
そう言って、くるくると回り出す糸車。カタカタと白い糸が綿帽子から巻き取られ、糸の塊になっていく。
くるくる、くるくる……
ノアに糸車の使い方を教えながら、マギーはテーブルの椅子に座って二人を観察するニルの視線に気づくも、その視線が怖くて糸車から目が離せなかった。
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