第12話

「ノアは、何を知っているの?」


 その問い掛けに、ノアは寂しげに答える。


「言っただろ、外から来たって」


 ノアはマギーの頭を優しく撫でる。

 外、その意味を考えもつかないマギーは、困惑と混乱の入り混じった顔を浮かべ今にも泣きそうだ。


「ねぇ、マギー。此処が夢の中だって言ったら、君は信じるかい?」


 マギーの瞳が、大きく揺れた。


 ◆


「戻って来ないな……」


 ニルは集めた綿帽子を手にノアが消えたそこを見つめていた。一旦、家まで届けにいった筈だが、いつまで経っても戻って来ない。大した距離でもないから、すぐに戻って来れる筈。

 ニルはバスケットいっぱいの綿帽子を手に家へと向かった。

 そうしてしばらくすると、空から羽ばたく音がした。見上げると、カラスが何羽かニルの前に立ち塞がった。

 その先頭の一羽は目を細め、バサバサと態とらしく大きく羽を広げると、その目がニンマリと細まっている。


「やあ、ニル。マギーの様子はどうだい?」

「まあまあだよ」

「新しいお客が来たってね。受け取り先も見つからないとか」

「どう考えても異物だけど、マギーが受け入れてしまった。簡単には消せないし、かと言って誰も関わりたがらない」

「だろうね〜」


 カラス達は愉快に笑い、カアカアと鳴いてみせる。そうして暫くすると、その笑いも止まったが、その目はまたニンマリと笑っている。


「また、初めからやり直すかい?」


 愉快、愉快、今にも踊り出しそうに羽を羽ばたかせるカラス達。ニルは、表情の変わらぬボタンの目で静かにカラス達を睨んでいた。


「おお、怖い怖い」


 嘲笑にも近い笑いが飛び交う中、カラス達は羽を撒き散らしながら飛び立っていった。


「もう、次は無い」


 ニルはボソリと呟く。バスケットを持ち直すと、そのままゆっくりと家へと帰っていった。

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