第10話

 マギーは空を見上げていた。五時を過ぎると、星が出始める。一つ、二つ、三つ……次第に数え切れない数が空に浮かび上がる。

 昨日は見ている暇がなかったから、その分をギリギリまで見ていたい。

 家の前の道の向こう、広がる草原にピクニックブランケットを敷いた上に、ランタン二つを留め具の代わりにして、真ん中に夕ご飯のシチューとパンを置いたら、いつもと違った夕食だ。

 ノアは暫く、一緒に暮らす事になった。今はどこも手狭で余裕が無いのだそうだ。

 少し風変わりなノアも増えて、特別な記念日みたいだと、マギーはウキウキと夜空を眺めながらあつあつのシチューを口にした。


 ◆ 


 そんな時間はあっという間で、気付いたら眠る時間になっていた。


「マギー、そろそろ……」


 ノアは既に眠たくなったと家の中に戻ったが、ニルは隣でいつも通りに懐中時計を見張っていた。

 いつも通り、いつもと一緒、なのに、まるで先ほどまでが空元気だったのかと思える程にマギーは上の空だった。

 マギーは夜空を見上げながらも、うん、と返事はする。するが、動かない。


「マギー、九時になる」


 ニルは少し言葉を強めた。昨日、恐ろしい目に遭ったばかりなのに、と。

 そんな、ニルの事などお構いなしに、マギーは呆然と空を見上げたままだった。かと思えば、小さな疑問を口にした。

 

「……何で、九時なんだろう」


 あくまで、九時は目安だが、九時の鐘が鳴るまでは、ニルも辛抱強く待ってくれる。

 九時までは、安全なのだ。

 だから、余計に疑問だった。

 何故、九時なのだろうか、と。

 

「何でって、夜が深くなるからさ」

「でも、五時ぐらいから星は出るよ」

「……さあ、僕もそこまでは知らないよ」


 ぷいっと顔を逸らしたニルは、マギーの腕を強く掴んだ。


「さあ、寝るよ」

「ねえ、あれに捕まったら、どうなるのかな」

「知らないよ!!」


 マギーは何気ない質問をしているだけのつもりだった。が、その予想に反して、ニルは声を荒げて耳と尻尾をピンと尖らせている。

 まるで、毛を逆撫でた猫そのものの姿だ。

 ニルの表情は、ぬいぐるみで目はボタンなのにはっきりと、その表情には怒りが投影されている気がしてならなかった。 

 

 怖い。マギーは思わず後退りし、その顔は恐怖で埋め尽くされている。

 そのマギーの表情で、ニルは正気に戻ったのか、小さく「ゴメン」と呟くと、マギーの腕を無理やり引っ張っていた。


 ◆


 ♪〜


 今日は、ピアノだ

 この曲、知ってる

 星の……何だっけ

 、、、そうだ、きらきら星


 あれ、何で知ってるんだっけ?

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