第8話
朝が来た。そう実感したのは、夜空に星が一つも無くなり、ニルの懐中時計がチクタクチクタクと、いつもの音を鳴らしているかを確認してからだった。
◆
マギーはくたくただった。本当は、昨日の昼には帰る筈だったものだから、昨日の朝食以降何も食べていない上に、山も登って、更には走って降ったのだ。
物見遊山が、とんだ冒険へと変わっていた。
マギーは家に辿り着くなり、着替えもそこそこにベッドへと倒れ込んでいた。
「もうだめ、歩けない。何も出来ない」
「がんばったね。それと……」
ニルは、ベッドに顔を押し付けたまま立ち上がらないマギーから目を逸らし、ポツンとニルの隣に立つ少年を見た。
「君の家は何処だい?」
ノアは、にっこりと微笑む。
「さあ、何処だろうね」
巫山戯ているのか、それとも本当に分からないのか。迷子にしては全く動じていてない姿が、ニルの目に不可思議に映っていた。
「まあ、家が分からないなら仕方ない。ソファーを貸してあげるから、今日はそこで寝ると良い」
「ニル、毛布も布団も予備がないから、私のベッドをノアが使えば良いわ」
どうせ眠りたくないし。と、今にも落ちそうな瞼をしているのに、強がる姿を見せるマギー。
「じゃあ、僕はマギーと寝るから、ノアは僕のベッドを使えば良いよ」
「本当に眠るの?昼間よ?」
「今にも寝落ちそうな子が何言っているんだ。ほら、布団に入った入った」
ニルは無言でベッドへと入り込むノアを見届けると、マギーを布団の中へと押し込み、自身もその隣へと蹲っていた。
「今日の夜、眠れるかしら」
「明日の朝までぐっすり眠れば大丈夫さ」
ニルは静かにお休みと呟くと、マギーのおでこに頭をくっつけて眠りについた。
◆
〜♪
今日は音楽が聴こえる。ピアノだけで、歌は無い。
もっと愉快な音色なら良いのに。
ゆっくりと単調なテンポが、マギーにはつまらなかった。
いつもそう、これが夢というならば、もっと明るい音楽なら楽しいのに。
マギーの夢はいつも真っ暗闇で、遠くで聞こえる音だけが世界の全てだ。
その音も、マギーが選んだものでも無いから、楽しみでもない。
なんて、つまらないのだろう。だから、眠りたくなんか無いのに。
瞼を開けているのか、閉じているかの感覚も無いそこで、マギーが出来るのは、思考する事だけだった。身体の感覚はなく、そこに手足があるのかどうかも、動かしたところで、本当に動いているのかどうかも分からない。
ただ、邪魔な音楽こそ耳障りだが、一人で考えるにはもってこいの場所だ。
問題は、目が覚めるまで終わらない事ぐらいだ。
ノアは、何処から来たのだろう。
このまま、街に住むのだろうか。
家は、既にニルと二人で一杯だから、身を寄せられる家を見つけてあげなければ。
あ、そういえば、ニルにしっかり謝っていなかった。起きたら、いの一番に言おう。
そんな事を考えながら、マギーは何時間も、つまらない耳障りな音を聞きながら、暗闇で明日を待ち続けた。
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